専門分野
実証産業組織論
研究テーマ
1:調達における様々な不確実性がもたらす調達コストへの影響の実証分析
2:オークションモデル、バーゲニングモデルや価格差別モデルを用い構造推定を軸にした実証分析
研究紹介
調達において、クライアントは商品提供者により提案されたプロポーザルを正確に評価できないケースがよくあります。例えば、ウェブデザイナーの提案するウェブサイトの構成やレイアウトの評価は難しく、クライアントはデザイナーの提案をうまく評価できないかもしれません。このような状況で複数のデザイナーが競争する場合、デザイナーは自らのデザインが(さらには競合相手のデザインも)どう評価されるのかわからない中、契約を勝ち取る競争を強いられることとなります。
上記のような評価に関する不確実性は、軍隊が使用する武装兵器の調達から、学術研究計画提案書の評価まで多岐に渡って存在しうる一方、その存在が実証されたケースはありません。この評価の不確実性がデザイナーの行動にどういった影響を与え、その行動の変化はどのようにデザイン競争の結果に影響をもたらすのでしょうか?
Takahashi (RAND, 2018)では米国フロリダ州における公共工事請負契約における入札データを用いて、デザインプロポーザルの査定値にレビュアー間で大きな乖離が存在している事実を示しました。また、構造推定の手法を用いてデザイナー(建設コンサルタント)がどの程度の不確実性に面しているのか推定し、不確実性の増減がどの様に入札者の行動と結果に影響するのかを検証しました。
Figure1では入札者が工事契約を入札で勝ち取る確率は、デザイン評価に関する不確実性が増加するにつれてどう変化するのかを示しています。評価の不確実性が大きな場合には、粗悪なデザインで勝つ確率が大きくなり、良質なデザインでは勝つ確率が減ることが観察できます。良質なデザインは入札者にとってコストが大きい事が予想されるため、不確実性の増加は入札者が粗悪なデザインを提案するインセンティブを増加させる効果があることを示しています。
この推定結果を基に、デザイン評価の不確実性が調達コストに与える影響を直接的な影響と間接的な影響に分けました。直接的な影響とは、入札での勝者がランダムな評価によって入れ替わる影響で、間接的な影響とはランダムな評価により入札行動(プロポーザル)が変化することによる影響です。間接的影響が大きいことが結果として得られ、これは一見ランダムネスそのものが小さい状況下においても、調達価格の増加や質の低下が起こりうることを示唆しており、評価の不確実性の重要性を指し示すものとなります。
高橋 秀典
TAKAHASHI, Hidenori
准教授:Associate Professor
学位:Ph.D. in Economics (The University of Toront)
takahashi@osipp.osaka-u.ac.jp