専門分野
人材配置の経済学、人と組織の経済学、サーチとマッチングの理論
研究テーマ
人・組織・マクロ経済
研究紹介
人は、人生の中で様々な人や組織との出会いと別れを経験します。その中でも就職・退職、結婚・離婚は長期的な関係の変化を伴うため、人生における重要な節目といえるでしょう。そういった様々な出会いや別れを通じ、不思議な縁によって共に生きることとなった同僚や伴侶、そして師弟や友人たちとともに、私たちは様々な共同生産を行いながら生活を営んでいくのです。
では、出会いや別れのプロセスを通じて実現するこの不思議な縁の背後にはどのようなメカニズムがあるのでしょうか?また、そのような出会いや別れのプロセスを経て、私たちの社会はどのような人材の配置を実現しているのでしょうか?そして、実現されている人材の配置は社会の発展や格差にどのような影響を及ぼしているのでしょうか?最後に、現存する社会的な人材配置の構造の中でどのように生きることで私たちは幸せを手に入れることができるのでしょうか?私はこういった問題意識を持ちながら研究を進めており、「人材配置の経済学」と呼んでいます。
特に、現在は、「日本の大学入試制度の役割と問題点:人材の育成と選別の観点から」というテーマで科学技術研究費を取り、日本の大学入試制度が日本の人材配置にもたらす影響を理論と実証の両面から明らかにしようと分析を進めています。日本の大学入試制度には以下のような特徴があります。
1) ペーパーテストのウェイトが極めて高い。
2) 偏差値上位校出身の社会的リーダー(役員・官僚・政治家等)が多数存在する。
3) 高校生は大学で学ぶ内容を十分に理解する前から、学部を選択しなければならない。
4) 比較的社会の変化に対して柔軟な対応を取りづらい国公立大学が大学入試の偏差値の上位校として位置を占めている。
5) 国公立大学は複数受験が難しく、一回の試験に基づく一発勝負であり、多くの浪人生を出している。
こういった日本の大学入試の特性は社会全体における人材の配置にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。これが、現在私が取り組んでいる研究テーマです。もし、上記内容を聞いて、より具体的な研究計画に興味を持たれた方は、下記ホームページをご覧ください。
http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/%7Etakii/Leaders2.html
また、上記問題意識のもと、毎月「人材配置の経済学」研究会を開催しています。そこでは、科学技術研究費のプロジェクトに参加しているメンバーが最近執筆中の論文を発表したり、広く「人材配置」と関連する論文の報告が行われたりしています。具体的に議論されている研究論文に興味のある方は下記サイトをご覧ください。
https://sites.google.com/site/jinzaihaichinokeizaigaku/
最後に、より具体的に私自身の過去の研究にご興味を持たれた方は、下記サイトをご覧ください。
http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/%7Etakii/research.html
分析の視点と手法:次に、「人材配置」の問題を分析するにあたって考慮すべき視点と手法ついて話をしようと思います。まず第一に現実に存在する人材配置のメカニズムを理解するためには、私は下記二つの視点にバランスよく注意を払うことが大切であると考えています。
1) 人は能力・嗜好等において多様であり、それらが、職や配偶者といったパートナーの選択に影響を与えるということ。
2) 人材の配置は個人の意思だけでは決定できず、社会的な協力や競争といった多くの人との目に見えないつながりの中で決定されているということ。
つまり、多様な人間が社会の慣習や制度に基づくルールの中で結びつきあうことで社会的生産が行われている、という素朴であるが複雑な事実こそが現実の人材配置を理解する上で大切なのではないかということです。個人の多様性だけを強調すると、私たちの視野はどんどん狭くなり、なぜある人材配置が実現しているかということの背後にある社会的メカニズムを理解することは困難でしょう。また、社会の中でのつながりを俯瞰するために集計データの動きを見ているだけでは、統計データの背後にある多様な個人の様々な行動を見過ごすことになり、あるペアーが実現する背景にある特殊性に思いが及ばないかもしれません。このように、いかにこの矛盾する二つの要求のバランスを保つかということが、この研究における難しさの一つだと思います。
第二に、望ましいマッチを実現し持続するうえでの人々の努力も無視はできません。まず、人のもつ能力や嗜好の多様性は、過去にその人が行った様々な努力に強く影響を受けています。また、そもそも自分に適したパートナー(職、配偶者等)を探し出すことそのものも何らかの努力を必要とします。更に、長期的な関係を続けるためにも、お互いの努力抜きには語れません。このような個人の努力を考慮に入れたとき、私たちは「努力するかどうかのインセンティブに影響を与える制度的枠組み」という避けることのできないもう一つの問題につきあたります。特に、「努力というものが、契約になかなか書くことができず、パートナー間以外の第三者には把握しづらい」という認識は大切です。この状況下では、あなたのパートナーもあなたが行った努力の恩恵を受けるにもかかわらず、そのパートナーに努力のための費用負担を求めることができない場面も生じうるため、努力をしようとする人が減ってしまうかもしれないのです。
このように「人材配置」の問題は多面的で複雑に入り組んだ問題を含んでいるため、その全貌を理解するためには、割当理論、サーチ理論、教育投資の理論、契約理論といった幅広い理論が必要となります。また、人材配置の問題は多様な個人間のインタラクションといった問題を取り扱っているため定量分析も目的に応じた使い分けが必要となります。具体的には、個人間の多様性を主たる問題として分析したいときには多様性に基づくセレクションの問題に焦点を置いた統計的因果推論の方法や一般化Roy Modelの手法を、個人間のインタラクションにまつわる問題を主として分析したいときには構造推計やカリブレーションといった均衡モデルを定量分析できる手法をバランスよく使い分けることが必要になります。より具体的に、「人材配置の経済学」の授業内容を知りたい方は、下記ホームページをご覧ください。
http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/%7Etakii/EHRA.htm
また、上記幅広い知識を吸収するためには、最低限の数学や統計の知識が必須となります。これまでの情報を踏まえて、大学院において、私の論文指導を受けたいとお考えの方は、下記ホームページの内容に目を通していただければと思います。
http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/%7Etakii/Students.pdf
瀧井 克也
TAKII, Katsuya
教授:Professor
学位:Ph.D. in Economics(ペンシルバニア大学)
takii@osipp.osaka-u.ac.jp