専門分野
国際関係論、計量政治学
研究テーマ
国際紛争と危機外交、国内政治と外交政策
研究紹介
2022年2月、戦争を回避するための各国の努力も実を結ぶことなく、ロシアがウクライナに侵攻しました。国際関係論が長年研究してきたことではありますが、この悲惨な戦争は、国際関係における根源的な問いを、再度我々に突きつけているといえます。つまり、戦争はなぜ起こるのか?外交はどのような条件のもとで機能するのか、あるいは機能しないのか?なぜ戦争は長期化し、さらなるエスカレーションを引き起こすのか?最終的に戦争はどのように終わるのか?といった問いです。
国際関係論における、最近の紛争研究の理論的・実証的な進展は、これらの重要な問いに対する有意義な視座を与えてくれます。現在、私が取り組んでいる研究テーマは、紛争過程、危機交渉、国家間紛争における国内世論の役割に関して、長年積み重ねられてきた理論をさらに実証・再検討するものです。米国政府の膨大な外交文書をデジタル化し、機械学習を適用することで、政策立案者の脅威認識、紛争拡大・縮小の議論、信頼性への懸念など、国家間紛争における様々な鍵となる概念を特定・定量化し、統計分析を行っています。この新しい計量的な歴史へのアプローチは、政策決定者の認識と意思決定過程を体系的に分析することで、国際危機・紛争において、彼らがどのように政策を熟考及び議論し、それらを対外的に発表し、行動するのかといった理論的基盤を考え、実証することを目的としています。
例えば、最近行った研究(Katagiri and Min 2019)では、1958年から1963年のベルリン危機に関する、18,000点以上の米国政府の機密解除文書を通じて、国際危機交渉におけるソ連による脅しのメッセージの信憑性を検証しています。国際危機に関する先行研究では、実際にとった敵対的行動、公の場でのメッセージ、外交チャンネルを通じた秘密裏に送られるメッセージといった、危機交渉の際の異なるチャンネルの相対的な効果を、主にゲーム理論・定性的な手法を用いて研究してきました。これらのアプローチは、送ったシグナルが相手国に確実に受け取られ、正しく認識されるという、暗黙の前提を置いていました。しかしながら、政策決定者が危機下において膨大な量の政策情報に接し、様々なノイズの中から政策決定に有意義なシグナルを見分ける必要があるという、政府組織における政策決定過程の現実を見落としがちでした。
ベルリン危機に関する米国政府の外交文書を統計的に分析した結果、東側諸国による実際の敵対的行動は、ホワイトハウスの政策決定者の認識を形成する上で、いかなる外交的メッセージよりも効果的なシグナルとなりうる点が明らかになりました。また、本研究の分析の結果から、公的な場で発表されるメッセージよりも、外交チャンネルを通じた秘密裏に伝えられるメッセージの方が、よりノイズが少ないため確実に受け取られやすく、より一貫性があるため正確に伝わりやすいことから、効果的な危機交渉のコミュニケーションのチャンネルとなりうることが実証されました。これは、外交チャンネルを通じて秘密裏に相手国を脅すメッセージは、「コストがかからない」ことから信憑性が低いと考え、その有用性を疑問視してきた一連の先行研究とは一線を画すものです。
学生へのメッセージ
この研究の他にも、様々な外交文書やテキストデータを用いて、統計的・計算的アプローチによる国家間紛争や危機交渉に関するプロジェクトに取り組んでいます。その他の論文や現在進行中のプロジェクトについては、私の個人的なホームページを参照するか、メールで照会してください。OSIPPのセミナーや講義で皆さんと議論できるのを楽しみにしています。
片桐 梓
KATAGIRI, Azusa
准教授:Associate Professor
学位:博士(政治学)(スタンフォード大学)
katagiri@osipp.osaka-u.ac.jp
azusa.katagiri@osaka-u.ac.jp