専門分野
国際法
研究テーマ
武力紛争法、武力行使の規制、海洋法、国際法史等の研究
研究紹介
かつて(第一次大戦前)の国際法には「戦時国際法」と呼ばれる分野がありました(現在では「武力紛争法」とか「国際人道法」などと呼ばれる分野に概ね対応します)。戦時国際法は、交戦国(戦争に参加する国)相互間に適用される「交戦法規」と、中立国(戦争に参加しない国)と交戦国との間に適用される「中立法規」によって構成されます。戦争において、交戦国は、様々な形で人の生命・自由・財産を奪うわけですが(敵戦闘員の殺傷や捕虜としての抑留、軍事目標の攻撃など)、それをできる限り人道化・合理化しようとするのが戦時国際法です。重要なのは、当時の国際法は、国際紛争を解決するため、あるいは国家政策を実現するための最後の手段として、国家が戦争に訴えることを合法的なものとして容認していた、ということです。戦争そのものが合法だったからこそ、戦争の「やり方」を定める戦時国際法が成立し得たとも言えます。
ところがその後、国際法は、戦争に訴える国家の自由を徐々に制限して行き(1919年国際連盟規約、1928年不戦条約等)、現在では国家が戦争に訴えることを原則として禁止するに至っています(自衛権の行使などを除く)。そうすると、戦争が禁止されている現在の国際法において、戦争の「やり方」を定める戦時国際法がはたして妥当し得るのか、妥当するとすればその根拠は何かという難問が生じます(「妥当する」とは、ある法規則が、法としての効力をもち適用されるという意味)。この点、捕虜の人道的待遇を定める規則だとか、非人道的な兵器の使用を禁ずる規則などは、戦争が合法であれ違法であれ、ともかくそれらを適用しなければ戦争(武力紛争)が残虐化・非人道化してしまいますので、武力紛争の非人道化の回避という実際的考慮によってその妥当が肯定されていますし、第二次大戦後にも条約が作成されています(なお、現在の国際法は、「戦争」という概念を基本的に用いず、「武力紛争」や「武力行使」などの概念を用いますが、その背景については、拙稿「イラク『戦争』・対テロ『戦争』:戦争とは?―国際法上の戦争と武力紛争」森川幸一ほか編『国際法で世界がわかる:ニュースを読み解く32講』(岩波書店、2016年)所収を参照してください)。これに対し、かつて「戦時国際法」と総称されていた諸分野の中には、そうした実際的考慮の働く余地がほとんどないものも含まれています。先述した「中立法規」(中立国が交戦国に対して軍事的援助を与えてはならないことなどを内容とする)は、その典型例で、中立法規が現在の国際法において妥当するかどうかについては見解が分かれています(博士論文では中立法規を扱いました)。
私の研究上の主たる問題関心は、かつて戦時国際法と総称された諸制度が、戦争の違法化された現在の国際法において原理的にどのようにして妥当の根拠を保持し得るかという問題の解明にあります。具体的には、かつて戦時国際法と総称され、現在では武力紛争法と総称される諸分野(中立法規、海上捕獲法、占領法、講和条約等)の歴史的・実証的・理論的研究が私の研究の中心ですが、それに付随して、国際法における武力行使の規制、戦後補償、海洋法、国際法史などの研究も行っています。
和仁 健太郎
WANI, Kentaro
教授:Professor
学位:博士(学術)(東京大学)
wani@osipp.osaka-u.ac.jp