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研究テーマ
個人情報と企業の価格付け:データ管理、価格差別、競争政策の経済分析
研究紹介
最近は、個人情報が企業の価格の決め方や、企業どうしの競争にどのような影響を与えるのかを研究しています。情報技術の発展により、企業は購買履歴、ウェブサイトの閲覧履歴、位置情報、アプリの利用記録などから、消費者の好みや「どのくらいの価格なら買ってくれそうか」を推測できるようになっています。その結果、同じ商品やサービスであっても、人によって異なる価格、割引、案内が提示されることがあります。こうした仕組みは、消費者に便利な提案や安い価格をもたらすこともありますが、その一方で、個人情報を利用して高い価格が付けられたり、企業どうしの競争のあり方が変わったりする可能性もあります。
私の研究では、企業がどのように顧客情報を集め、それを価格の決定に使うのかを、経済学の理論モデルを用いて分析しています。たとえば、過去の購買履歴をもとに顧客ごとに価格を変える仕組み、消費者が自分の情報を企業に知られないようにする行動、企業どうしが顧客情報を共有する場合、個人情報を多く持つ企業どうしが合併する場合、消費者が自分の情報を削除したり、他の企業に移したりできる制度などを扱っています。これらはいずれも、個人情報の扱い方が企業の価格付けにどのように結びつくのか、という共通の問題として考えることができます。
これまでの研究からは、個人情報の利用が消費者にとって常によいとも、常に悪いともいえないことが分かります。企業がより多くの情報を持つことで、消費者に合った商品やサービスが提供される場合もあります。一方で、企業が消費者ごとの違いを詳しく知ることで、価格が高くなる場合もあります。また、消費者が自分の情報をどの程度管理できるかによって、企業の利益、消費者にとっての利益、社会全体にとっての望ましさは大きく変わります。私の研究は、個人情報の保護と企業の価格付けを別々の問題としてではなく、市場の中で互いに結びついた問題として理解することを目指しています。
掲載する図は、Choe, Matsushima and Shekhar (2025) の Figure 4 です。この図は、個人情報の利用に関するルールが導入されたとき、消費者の行動がどのように分かれるのかを示しています。ある消費者は市場から離れ、ある消費者は個人情報を提供せずに購入し、ある消費者はこれまでどおり個人情報を提供して購入し続けます。また、以前は情報を提供していたものの、新しいルールのもとで情報を提供しない選択に変える消費者もいます。この図は、個人情報を守るための制度が、単に企業の情報利用を制限するだけではなく、価格、需要、企業の利益、消費者の利益にさまざまな影響を及ぼすことを分かりやすく示しています。

Choe, Chongwoo, Noriaki Matsushima, and Shiva Shekhar (2025). The Bright Side of the GDPR: Welfare-Improving Privacy Management. Management Science, 71(8): 6836–6858, Figure 4より
この図は、個人情報の利用に関するルールの導入後に、消費者が「購入しない」「情報を提供せずに購入する」「情報を提供して購入を続ける」「情報を提供しない購入に切り替える」という異なる行動をとることを示している。