専門分野
行政法・環境法(水法・エネルギー法)
研究テーマ
行政法、環境法、水法、自然資源法、土地法、エネルギー法
研究紹介
私の専門は環境法です。環境法は、読んで字のごとく環境問題に法政策からの実務的にアプローチを指し、環境法学は環境問題と法政策的な実務を体系的に繋ぐ学問です。
環境という言葉は、使う人によって意味内容や指示対象が異なり、どのような対象を想定するかによって、問題解決に必要となる知見が異なります。また、国内の問題・国際的な問題のいずれを中心に焦点をあてるか等によって、法学の中でもどのような専門領域を核とするべきかが異なります。
日本の環境法は、公害問題への実務的対応を迫られたことから、当初、環境の意味をまずは人間の健康に関係の深い部分に限定し、対策に力を注いできました(水俣病対策などの水質汚濁問題への法的対応が最もわかりやすい例です)。公害への事後的対応に全力を尽くし、生活環境や生態系に関係の深い部分は後回しにせざるをえませんでした。その後、公害への事前対応と生活環境にも手を拡げ、不十分ながらも生態系保全や気候変動問題にも取り組んでいます。
日本の水法は、水資源の公平かつ効率的な配分(利水)と、洪水が水害に転じないようにするための政策(治水)を役割としてきました。しかし、利水の体系や治水の体系と(水質汚濁の問題を除く)環境保全をどのように整合させるかという点について議論が本格化したのはここ30-40年程度のことです。
私自身は、環境の意味を次のように捉えています。すなわち、一般に、生物は、自らを取り巻く環境のうち、その生物の生活にとって意味のあるものだけを選び出して世界を形成・認識しています。現在の環境のかなりの部分は、人間の影響下で形成された二次的なものです。環境には、生物としての人間が直接認識できないが人間にとって有益なものが存在する可能性があるうえに、環境そのものが非常に複雑であり、一度失われると回復が極めて困難です。人間の生活に関係の深い生物の目から見た環境を保全することによって、環境のどの部分を保全するかを明確にできると考えています。
水問題において環境という場合、私自身は、人間との関係が深く、森・川・海の繋がりが健全であって初めて生存できるアユ・サケ等の水生生物とその生存環境を念頭に置いています。工業化以前の日本において、アユやサケはどこにでもいるありふれた生物でした。しかし、現在、これらの生物は、殆どの場合には、天然遡上ではなく、人工ふ化と放流によって辛うじて支えられているにすぎません。
近年、必要最小限のダムや河川改修によって人命や財産を守りつつ、流域環境(生態系等)への影響を可能な限り抑える手法の検討が進み、新たな手法に前向きに取り組む流域も出てきました。また、気候変動に適応しながら、治水・利水・環境の調整をどのように進めていくかという課題を突き付けられています。現在および将来の水法は、従来の利水・治水だけではなく、環境保全においても重要な役割を期待されています。
私自身の水法研究では、日米の比較研究や他分野の研究成果を踏まえて、①アユやサケの天然遡上の復活や②気候変動適応策としての統合的水管理を具体的な目標として、目標達成に必要な法政策を検討・提言しています。さらに、③近年、関連の深い隣接領域であるエネルギー法・土地法(主に森林法)・漁業法・気候変動法制に対象を広げています。
学生へのメッセージ
水法は、日本では主に憲法・民法・行政法・刑法に跨り、米国では、国際河川があるために国際法にも跨る分野です。私自身は、次のような具体的な政策課題に取り組んでいます。
I)統合的水管理(既存の水インフラの有効活用、水融通の仕組みの導入、地下水の持続的な利用、土地利用規制等)によるアユやサケの天然遡上の回復。 II)河川の上流にある森林管理をどのように進めていくか。III)揚水式発電所を原子力発電ではなく再生可能エネルギーの調整弁に使えないか。IV)良好な環境の象徴であるアユやサケの天然遡上をどのように実現するかなどの課題に、法学から提言を試みています。これらの課題について検討する中で、V)政策決定において、民主主義がどのような役割を果たすべきか、VI)米国の州憲法上の環境権がどのような役割を果たしているか、VII)政策形成において訴訟はどのような役割を果たせるか。
環境法の専門家には、様々な法分野の基礎を固めると同時に、関連する他分野の専門家と協力しながら新たな政策を形成したり、個別の問題を解決したりすることが求められます。簡単ではありませんが、非常にやりがいがあり、刺激に満ち溢れています。みなさん、是非、一緒に挑戦しましょう。
松本 充郎
MATSUMOTO, Mitsuo
准教授:Associate Professor
学位:修士(法学)(東京大学)
matsumoto@osipp.osaka-u.ac.jp