専門分野
国際経済学、貿易政策
研究テーマ
国際貿易論、開発経済学、東アジア経済論
研究紹介
計算可能一般均衡 (CGE) モデルは、経済政策の中長期的影響についての実証分析の手法として、租税・自由貿易協定・多国間貿易自由化・CO2 等の温室効果ガス抑制政策の評価において広く利用されています。CGEモデルの最大の特徴は、経済システムの活動が内生的に決定されることで、これは国内市場や貿易相手国との相互作用が考慮されていない従来の部分均衡モデルとは対照的です。先行研究により、政策変更の間接的影響が非常に大きいことが示されていることから、世界・国内経済全般にわたる相互作用を包括的に考慮するCGEモデルによって、政策が与える影響をより正確に評価できると考えられます。
動学的CGEモデルを使用して現在行っている研究、及びこれから行う予定の研究は以下の通りです。
1. 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)が、2020~2035年の間、日本を含む11の加盟国の経済厚生、実質GDP、及び各産業の生産量・雇用に与える影響について分析しています。
2. 米国のTPPからの離脱が、離脱しなかったシナリオと比較して、自国の経済厚生、実質GDP、産業別生産量にどのような影響を与えるのか。特にどの部門が大きな打撃を受けることになるのか。
図1. 3つのシナリオにおける米国の実質GDPの変化額
(ベースラインからの乖離, 10億USドル, 2011年価格)
図1は、3つのシナリオにおける米国の実質GDPの変化額を示しています。 Asian track のシナリオでは、東アジア地域包括的経済連携 (RCEP) が2020年に発効され、10年間で関税の撤廃(コメなど一部の農産物を除く)と20%の非関税障壁 (NTB) の削減を行います。2028年にはアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)が形成され、2035年までに加盟国が80%の関税撤廃と16%のNTB削減を実施します。CPTPPのシナリオでは、CPTPP11ヵ国が2019~2028年の間に、米国・韓国・インドネシア・フィリピン・タイの5ヵ国が2024年にCPTPPに加盟すると想定し、2033年までに関税撤廃と20%のNTB削減を実施、2028~2035年の間にFTAAP 加盟国が80%の関税撤廃と16%のNTB削減を行います。仮定のTPP + USシナリオでは、米国はTPPから離脱せず、米国を含んだTPP12は2019~2028年の間に、TPP16は2024~2033年の間に、FTAAPは2028~2035年の間に執行します。 TPP + USは、最初の2つのシナリオにおける米国の実質GDP等の結果と比較するために追加しています。
3. 中間材の輸入を原産国別に分け、グローバル・バリューチェーン (GVC) の構造を組み込んだ動学的CGEモデルを構築しています。このモデルを使用して CPTPP 及びRCEP の効果を推計し、GVC構造を組み込んでいないモデルを使用して推計した結果と比較する予定です。これにより、GVCの深化がメガFTAの経済効果に影響を与えるかどうかを考察する予定です。
4. 投資国・受入国・産業別海外直接投資 (FDI) のデータベースが整備された後、FDIを内生化したCGE モデルを構築したいと考えています。
学生へのメッセージ
大変申し訳ありませんが、2019年8月31日に大阪大学を退職のため、今後OSIPPへ入学の学生の指導教員になることができません。
利 博友
LEE, Hiro
教授:Professor
Professor Lee has now retired his full faculty position.
学位:Ph.D. in Economics(カリフォルニア大学バークリー校)