専門分野
健康経済学、公共経済学、労働経済学、人口経済学、家族の経済学、応用ミクロ計量経済学、産業組織論、中国経済
研究テーマ
健康・家族・医療制度・人口動態・投票行動などについて、各国のデータを用いて実証研究をしてきました。2021~2025年に中国で教鞭を執っていたので中国のデータを使った分析にも詳しくなりました。現在は少子化・結婚・離婚、男児選好、中国の人口政策、性格とウェルビーイング、といった研究課題に取り組んでいます。
研究紹介
今の人は昔の人と比べて太ってきたか痩せてきたかご存知ですか?ここでは日本におけるBMI(太り具合の尺度)の長期データを用いて行った研究をご紹介します。男性のデータを見ると、若い世代ほど、また年齢が上がるほどBMIが高くなる、というシンプルな関係が成り立っていることがわかります(上図)(戦争の影響などによる細かな凹凸はありますがここでは省略)。しかし、日本人女性を見るとそれとはまったく異なる複雑な形になっています(下図)。10代前半や中高年で言えば、世代が下るほどBMIが上がってきているのは男性と同じなのですが、10代後半と20代、30代前半についてはBMIは世代が下るほど下がってきているのです。しかもこの不自然なトレンドは戦後に始まったものらしいということもデータ分析から示唆されました。
Maruyama, S., and Nakamura, S. (2015) “The Decline in BMI among Japanese Women after World War II,” Economics and Human Biology, 18, 125-138.
なぜこのような不自然な男女差が存在するのでしょうか?このあとに発表した論文では日本に加えて世界の男女のBMIの傾向、そしてカロリーの摂取量と消費量の動向を調べ、女性の社会進出に伴い女性のカロリー消費量が男性と比較し相対的に多くなってきていて(=男性のカロリー消費量は年々大きく減少してきているのと比較して)、従って、男性と比べた女性のBMIが相対的に下がってきていることを明らかにしました。
Maruyama, S., and Nakamura, S. (2018) “Why Are Women Slimmer Than Men in Developed Countries?” Economics and Human Biology, 30, 1-13.
しかし、まだ多くの謎が残っています。若い日本人女性のBMIの異様なくぼみはなぜ存在しているのでしょうか?その背景にある社会構造は?現代人のBMIは今後どうなっていくのでしょうか?男女差は?皆さんはどのような仮説を思いつきますか?
一見すると単純に見える疑問――たとえば、なぜ男性と女性で太り方に違いがあるのか、あるいはなぜ世代によって傾向が異なるのか――も、データと視点を変えて掘り下げていくと、社会や経済のあり方が私たち一人ひとりの行動にどのように影響しているのかが見えてきます。そうした、ぱっと見では当たり前に思える現象の背後にある「なぜ?」を解き明かすことこそ、研究の醍醐味と思っています。
学生へのメッセージ
現代社会では経済発展と共に睡眠時間が短くなり、不眠症・睡眠障害が増加しています。こう聞くと、皆さんはどう思うでしょうか?直感にしっくりきますか?こんな話があります。オーストラリアにイル・ヨロントというアボリジニーの集団がいて、鉄の斧を使うという大きな技術革新が起きた結果、睡眠時間が長くなったと言われています。初級レベルの簡単な経済モデルを考えるならばこのアボリジニーの逸話は非常に明快です。それではなぜ、今日の我々は豊かになりながら睡眠障害が増えているのでしょうか?
皆さんが興味のある様々な物事を経済学のレンズを通して考えてみてください。あれ、何かがおかしいな、不思議だな、どうしてそうなっているんだろう、と思ったらそれは素晴らしい研究テーマを見つける第一歩です。
丸山 士行
MARUYAMA, Shiko
教授:Professor
学位:博士(経済学)(ノースウエスタン大学)
maruyama@osipp.osaka-u.ac.jp