専門分野
国際法
研究テーマ
(1)人権条約機関と個別の国家機関との間の関係、(2)国際人権法における「国家機関間規範」、(3)人権条約の民主的正統性
研究紹介
国際人権法とは
私が主要な研究分野とする国際人権法とは、国際法の一分野であって、人権保障に関する国際法の総体を指します。国際人権法における主要な法源は、人権条約です。そして、人権条約にはそれぞれ、その履行を監視するための人権条約機関が設置されています。人権条約機関には大きくわけて2種類あり、1つ目は○○裁判所という名称のもので(例:欧州人権条約の機関である欧州人権裁判所)、個人等から当事国の措置が人権条約に違反しているという申立てを受けて審査を行い、国際法上の拘束力のある判決を出します。2つ目は○○委員会という名称のもので(例:自由権規約の機関である自由権規約委員会)、個人による通報や国家から提出された報告書をもとに各当事国の人権条約の履行状況を審査して、法的拘束力のない勧告を出す等の幅広い活動を行います。
※国連の9つの主要人権条約とその議定書をあわせた18の条約の批准状況です(2022年3月現在)。世界のほとんどの国が複数の人権条約の当事国となっています。(国際連合人権高等弁務官事務所ウェブサイトより。https://indicators.ohchr.org/)
※欧州人権裁判所における審理の様子です(欧州人権裁判所ウェブサイトより。https://www.echr.coe.int/Pages/home.aspx?p=home)。
研究の背景:人権条約の国内法秩序への浸透
人権条約は、国家間の水平的な関係を規律する伝統的な国際法とは異なり、従来国内公法が規律してきた、国家とその国家の管轄下にある個人との間の垂直的な関係を規律しています。また、人権条約による規律は、国家による公権力の行使の広範な側面に日常的に関連してきます。このことから、人権条約の実効的な実施には、伝統的に国際平面で国家を代表してきた行政府(とくに外務省)のみならず、議会や裁判所といったあらゆる国家機関の関与が不可欠です。そこで近年、人権条約機関は、議会や裁判所等の個別の国家機関を実質的な名宛人とした判決・勧告を出すようになってきています。そして、そうした要請を受け止めるために、人権条約当事国の側も、国内的な実施メカニズムを整備しています。その結果として、近年では、多くの国において、人権条約が国内法秩序に浸透し、人権条約機関の国内法秩序における影響力が増大しています。
私は、このような背景のもと、次の3つのテーマについて、相互に関連付けながら研究をすすめてきました。
研究テーマ①:人権条約機関と個別の国家機関との間の関係
人権条約機関はいまや、多くの国の国内法秩序において、実質的に国家機関にも等しい大きな影響力を行使しつつあります。そう考えると、人権条約機関と単一のアクターとしての「国家」との間の関係のみを論じる従来の枠組みは不十分で、人権条約機関と個別の国家機関(議会、裁判所、各種行政機関など)との間の関係を論じる必要があります。そこで私は、人権条約機関と個別の国家機関との間の関係はどのような原則によって規律されているのか・されるべきなのかについて、人権条約機関や国家機関等の関連アクターの実践の分析と、国内憲法学や法哲学を参照した規範的分析の両面から、研究に取り組んできました(髙田陽奈子「人権条約における個別の国家機関の位置づけ――単一の国際法的実体としての『国家』の解体(1)~(6・完)」法学論叢188巻 2号、3号(2020年)、189巻 2号、5号、6号、190巻1号(2021年))。
研究テーマ②:国際人権法における「国家機関間規範」
伝統的に、国際法とは、単一のアクターとしての国家によって生成され、国家を名宛人とし、そして国家によって運用されてきました。これに対して、国家機関間規範とは、私のオリジナルの概念ですが、単一のアクターとしての国家ではなく、その国家を形作る個別の国家機関(議会や裁判所、各省庁、国内人権機関など)によって生成され、個別の国家機関を名宛人とし、個別の国家機関によって運用される規範を指します。代表例としては、1991年に国内人権機関の国際ワークショップで採択され、1993年に国連総会決議48/134の付属文書として採択された、国内人権機関に関するパリ原則があります。このような国家機関間規範は、人権条約の国内法秩序への浸透そして個別の国家機関の人権条約の実現への参加を促進する、非常に重要な役割を果たしています。そこで私は、グローバル法多元主義という理論的枠組みを用い、人権条約における国家機関間規範の機能について研究しています(国内人権機関間の規範について、Hinako Takata, “NHRIs as Autonomous Human Rights Treaty Actors: Normative Analysis of the Increasing Roles of NHRIs in UN Human Rights Treaties,” Max Planck Yearbook of United Nations Law, Vol. 24 (2021); Hinako Takata, “How are the Paris Principles on NHRIs Interpreted? Towards a Clear, Transparent, and Consistent Interpretative Framework,” Nordic Journal of Human Rights (forthcoming) 、議会間の規範について、髙田陽奈子「人権条約の実現における議会の役割――グローバルな法実践における規範・アクターの多元化の一例として」法律時報94巻4号(2022年))。
研究テーマ③:人権条約の民主的正統性
2000年代頃から、人権条約機関の国内法秩序における影響力の増大を背景に、人権条約機関の民主的正統性が問われるようになりました。多くの政治家や法曹、研究者そしてメディアが、国民による民主的コントロールに服しない人権条約機関が、国の最高法規たる憲法や民主的な議会の制定法、憲法上正統に権限を行使している最高裁・憲法裁の判決を実質的に覆すことができることを強く批判したのです。特に、国内において不人気な、受刑者やテロリスト容疑者、不法移民等の人権についてそうした問題が先鋭化しました。そこで私は、そのような人権条約の民主的正統性問題を解決するための理論的枠組みの構築に取り組んできました(Hinako Takata, “Reconstructing the Roles of Human Rights Treaty Organs under the ‘Two-Tiered Bounded Deliberative Democracy’ Theory,”Human Rights Law Review, Volume 22, Issue 2 (2022))。
学生へのメッセージ
OSIPPでは、上記3つのテーマを「人権分野における国際法・国内法の接近・交錯とそれに伴う人権条約の立憲化」という、より大きな問題意識のもとで有機的に関連付けながらより深く掘り下げるとともに、これらテーマに関連する・そこから派生する様々な問題について(できれば人権法分野以外の問題についても)研究したいと思っています。国際法の様々な理論的・実践的問題について、皆さんと議論できるのを楽しみにしております!
髙田 陽奈子
TAKATA, Hinako
准教授:Associate Professor
学位:博士(法学)(京都大学)
takata@osipp.osaka-u.ac.jp