専門分野
マクロ経済学・環境経済学
研究テーマ
経済成長と自然環境
研究紹介
今日、私たちは多くの環境問題に直面しており、環境問題の解決は重要な課題の一つです。そのために自然環境に影響を与える経済活動を縮小させるべきでしょうか?経済成長は必要ないでしょうか? 私はむしろ、環境改善するためにも経済成長が必要であると考えています。もし、経済成長が止まるならば、今の子供達の教育資源も不十分となり、近い将来の技術発展も望めないかもしれません。その結果、将来世代の人々の生活水準は今よりも低くなるかもしれません。逆に、経済成長で教育・健康水準向上のための資源は増えます。研究・開発によって大気中の地球温暖化ガス、エアロゾル、海中のゴミなどを取り除く技術も生まれるかもしれません。自然資源を枯渇させることなく、技術進歩によって代替品で良質の製品が生産できるようになるでしょう。
私は主に動学的マクロ経済モデルを用いて経済成長と環境政策などを分析しています。ただ、多く使われるモデルが最良であるかは精査する必要があります。例えば、ノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・ノードハウスによって開発されたDICEモデルは気候変動政策の分析で非常に多く用いられています。DICEモデルは気候変動とマクロ経済モデルを統合したモデルで、温室効果ガスと気温の変化の関係式は複雑です。その複雑な関係式を分析し、より簡単化したモデルを用いてオリジナルのDICEモデルが示す長期間の二酸化炭素蓄積経路を複製できることを示しました。
また、自然破壊による社会へのダメージや大災害のリスクも分析すべき点です。このリスクは不確実であり、不確実性について分析できないモデルを改良していく必要があります。さらに、個人のリスクに対する態度や将来の生活水準への評価の仕方、生産・CO2削減技術をどのようにモデルに組み入れるかは、望ましい政策の分析で非常に重要です。以下の図は同じく簡単化したモデルを用い、オリジナルのDICEモデルで仮定されている地球温暖化からのダメージの関係式を大災害リスクについて分析できる関数形に変えた場合と、削減技術の仮定を緩めた場合も分析し比較したものです。消費の長期経路(左図)は大きく異なりませんが、二酸化炭素の社会的費用(最適炭素税)の長期経路(右図)は、モデルによって大きく異なることがわかります。
いずれの図もIkefuji, Laeven, Magnus, Muris, 2021. “DICE Simplified.” Environmental Modelling and Assessment, 26, 1-12 を基に作成
経済活動と自然環境は密接な相互依存関係にあり、しばしばトレードオフの関係にあります。学生のみなさんには環境保護を理想だけで意見を主張するのではなく、多様な価値観を持つ人々から構成されている社会で実行可能な最善の環境政策が議論できるよう、経済学の知識と分析技法を身に着けてほしいと思います。
生藤 昌子
IKEFUJI, Masako
教授:Professor
学位:博士(経済学)(大阪大学)
ikefuji@osipp.osaka-u.ac.jp