専門分野
国際法
研究テーマ
国際投資法、国際紛争処理
研究紹介
研究分野の紹介
経済的なグローバル化の進んだ現代では、国境を越えた企業活動が活発になされています。外国での事業運営のために資本を投じる経済活動を外国直接投資と呼びますが、外国直接投資には、通常の商業活動にはないリスクが現地政府との関係で伴います。例えば会社の財産が政府によって収用されたり、工場の建設許可を出してもらえず損害を被るかもしれません。現地の裁判所で救済を求めても、外国企業の目から見て公平な解決は得られないかもしれません。
古くから国際法は、国が外国投資家を一定の基準に従って取り扱うよう義務づけてきました。しかし、国際法の主たるアクターが国家であったことから、こうしたルールの違反に対する責任の追及は投資家の国籍国が行うものとされていました。この枠組みでは、国が外交的配慮から責任追及を躊躇することも多く、投資家が十全に保護されているとは言い難い状況にありました。
そこで現在では、投資家が現地政府を直接相手取って救済を求める国際仲裁手続きを認める条約が、主に2国間で結ばれるようになりました。こうした投資条約は、特に冷戦終結後激増し、現在では3300本ほど存在すると推計されています。(下図。土井翔平・北海道大学公共政策大学院准教授の協力を得て作成。)この条約に基づく仲裁案件は1000件以上に上り、日本(日系)企業による利用も増加しています(伊藤忠、三井物産、日産、ブリヂストン等)
研究内容の紹介
外国投資家=私人が国家に対して国際法上の請求を提起するという現象は、興味深い理論的問題を提起します。投資家は、国際法上の権利を直接与えられた国際法主体となったのでしょうか。もしなったのだとすると、その地位は、他の国際法主体(国家や国際機構、あるいは我々のように人権を享有する個人など。)の地位と、その性質・内容において法的に(どう)異なるのでしょうか。
例えば、国際法違反に対して国家が請求できる賠償と同等の賠償を請求できるのか(拙稿「投資条約仲裁における投資家の国家責任追及権の根拠と性質-非金銭的救済を素材として」『国際法外交雑誌』117巻2号(2018年))。また、条約当事国は自分たちの条約を合意により自由に処分できると伝統的に考えられてきたけれども、では投資家に不利な条約解釈を合意したり(拙稿「投資条約の解釈統制と投資家の「客観的」国際法主体性(1-5・完)」『法学論叢』183巻5号、184巻1号、同5号、185巻2号、同5号(2018-19年))、条約それ自体を廃棄してしまうこと(拙稿「投資条約ネットワーク」が投資条約の改廃にもたらす影響-Swissbourgh対レソト事件を題材として)『岡山大学法学会雑誌』69巻1号(2019年))も可能なのか。
私の研究では、上記の理論的問題を念頭に、これら具体的な諸問題について実証的研究を行なってきました。高度に実践的な法分野でありながら、国家間(inter-State)法として生まれた国際(inter-national)法のアイデンティティに関わる高度に理論的な側面を持つ点に、面白みがあると感じています。
また共同研究では、国際投資法における国家の位置づけ(科研費基盤B 20H01425「国際法における「帰属」の遍在性に関する研究」)や、宇宙ビジネスにおける国際投資法と国際宇宙法の交錯(同20H01438「宇宙の商業利用がもたらす「宇宙法」の変容と課題--新時代のルール形成に向けて」)についても考察しています。
分野に関わらず、国際法を実践的かつ理論的な観点から研究することに関心のある学生さんと共に研究できることを楽しみにしています。
二杉 健斗
NISUGI, Kento
准教授:Associate Professor
学位:博士(法学)(京都大学)
nisugi@osipp.osaka-u.ac.jp