専門分野
労働経済学、教育経済学、ヒューマン・リソース・マネジメント
研究テーマ
人・組織・社会、教育の経済学、労働経済学
研究紹介
人の成長や人材育成を主な研究分野としている。これまで教育学者は学校教育と学校卒業直後の初職までを研究対象としてきた。一方、経済学者は学校教育の内容にはあまり触れず、主に入職後の訓練における人材の育成を問題としてきた。しかし、人は継続して成長し続けており、学校教育過程と労働市場に出てからの成長過程を二分して捉えるのではなく、一貫して観察する必要があると考えている。
最近の主な研究テーマは、非認知能力やコンピテンシーと呼ばれる社会的能力の長期的影響力を探ることである。
近年の教育学や教育経済学における研究は、これまでの学科の成績、学歴、学校歴といった顕在化した指標を対象としたものから、ジェネリックスキルや非認知能力、あるいは、社会人基礎力やコンピテンシーといった表面的には観察しづらい特性の把握や役割の分析にシフトしている。大学教育改革に関しても、高度な専門能力だけでなく社会で求められることになる能力を備えた人材の育成が強化されるべきであるとの声が強くなっており、社会に出る前の教育 課程においてそれを涵養する必要があるという意見もある。
しかし、社会的能力が学校段階を超えてどのように引き継がれ変遷して行くのか、一定の潜伏期を経て効果が顕在化するようなことがあるのか、あるいは、能力が大きく伸びる時期や効果的に育成できるような適正期が存在するのかという「問い」には答えられておらず、社会的能力の成長メカニズムと長期的影響の構造を描出する必要性がある。
具体的には、まず社会的能力が小中義務教育期間、高等学校、大学という各学校段階で育成され成績等に影響を及ぼすメカニズムをできるだけ精度の高いデータを収集し分析したいと考えている。次に、それらの結果を繋ぎ社会的能力が学校段階を跨いで影響を及ぼしていること、さらに社会に出てからの就業やキャリア形成にも影響していることも明らかにしたい。そのために、自治体や教育関係企業等と連携し、各教育段階において、独自に個別の生徒・学生に関して入学当初から卒業までを追跡調査し、社会的能力の成長の過程が分析可能なパネルデータ構築している。
また、経済学者は教育の現場や企業内訓練のメカニズムの制度や実態を十分に把握していない傾向が強く、存在しない架空の世界や空間を議論するという誤りを犯しがちである。それを避けるために、フィールドワークや聞き取り調査、および、文献調査も重視したい。
学生へのメッセージ
修士課程や博士過程といった特別な学術的訓練を修めるということは、是非や真偽により価値を判断するという態度を身につけることである。よって、「流行に流されず、また、権力・権威に媚びることなく」生きて欲しい。特に、国際公共政策を追求する場に所属するのであれば、人類や社会が抱えている問題に向き合い、その解決に真摯に取り組んでほしい。そのような姿勢から、独自の創造的な研究が生まれると思われる。そして、海外で流行っている研究テーマを輸入し紹介したり多少の改善を行ったりするだけで有名になるという段階に留まっている日本の社会科学の現状を打破することを期待する。
松繁 寿和
MATSUSHIGE, Hisakazu
教授:Professor
学位:Ph.D. in Economics(オーストラリア国立大学)
matusige@osipp.osaka-u.ac.jp