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【院生紹介】那須公香さん(OSIPP博士前期課程)

【院生投稿】那須公香さん(OSIPP博士前期課程) 私は、この春大阪大学外国語学部ハンガリー語専攻を卒業し、OSIPPの博士前期課程に入学しました。(写真:2021年9月ハンガリー留学中に首都ブダペストにて撮影。ドナウ川を挟んで奥に見える建物は国会議事堂。) 〜大学院進学・OSIPPを志望した理由〜 私が大学院に進学し、その中でもOSIPPに入学したいと思った理由は、第一に、政治や政策についてきちんと学ぶ必要性があると感じたからです。私は、神戸のNGOであるCODE海外災害援助市民センターで学生ボランティアとして活動しています。これまで、ウクライナから避難してきたご家庭の子守ボランティアやトルコの被災地へボランティアに行ってきました。6月には能登半島の被災地に足湯ボランティアに行く予定です。そして、このような市民活動をする中で見えてきた多くの課題は、政治や政策に関連するものでした。現場では、「なぜこのような問題が発生してしまうのか?」という疑問を何度も抱きました。政策がどのような影響を市民にもたらしているのかを俯瞰的に捉え、問題解決につなげるために、学問として政策を学びたいと思うようになりました。 第二に、私は将来外交官になりたいと考えており、外交や国際法についても学ぶことのできるOSIPPは将来のキャリアに向けて最適な場所だと考えました。また、海外では、修士以上の学歴を求められることも多く、将来のキャリアの選択肢を増やすためにもOSIPPを志望しました。そこで、今学期は、元外務事務次官の薮中三十二先生の授業を含め外交に関連する授業も履修しています。普段テレビのニュースなどでしか話を聞く機会がないような方々の授業を受けることができる点でもOSIPPはとても魅力的だと思います。 第三に、OSIPPの学際性にとても惹かれたからです。様々なバックグラウンドを持った日本の学生や留学生、自分が知らない分野について研究している人々に囲まれる方が、多角的に研究することができるのではないかと考えました。また、他者に自分が取り組んでることを分かりやすく伝える力を磨き、新しい環境で自分を成長させたいと思い、OSIPPを受験しました。 〜研究テーマ〜 私の研究テーマは、「国家の狭間に置かれた人々〜近隣諸国出身のハンガリー系マイノリティで、母国ハンガリーに移住した人々の事例〜」です。ハンガリーのオルバーン政権が近隣諸国のハンガリー系マイノリティの人々に対して取り組んでいる「国民政策」が提起している問題を研究する予定です。グローバル化が進む中、様々な背景から複数の帰属を持つ人々が多くなってきており、そのような人々が抱える困難や問題と国家による政策が関連しているのかどうかを明らかにしたいと考えています。 指導教員は、社会学、民族・エスニシティ、市民社会論が専門の河村倫哉先生です。私の研究テーマは、移民、ナショナリズム、多文化共生などに関連しているので、河村先生に指導をお願いしました。  〜入学後1か月経って~ 私は、興味・関心や研究テーマに合わせて授業を選択しています。OSIPPには様々な授業があり、ある一つのイシューを歴史、政治、法、経済などの観点から考えることができる環境が整っています。イシューについて多角的に考える良い訓練になります。また、一つ一つの授業内容が高度なので、どの授業でも、習ったことをそのままインプットしたり、課題をただこなしたりするだけでは、なんとなく受け身のままで終わってしまうと思います。学部生の時以上に主体的に、積極的に学んでいかなければならないと感じています。また、私は、学部生の時、マルチリンガルエキスパート養成プログラムを利用し、人間科学部の授業も並行して履修していました。OSIPP生も他学部・他研究科の授業を履修することができるため、今学期は人文学研究科の日本近現代史の授業を履修しています。 ~今後のビジョン~   私の曽祖父は先の戦争で戦死しました。祖父は戦争の悲惨さや命の尊さについて私が幼い頃から語り続けてくれていましたが、私は戦争など遠い昔に起こったことだと思っていました。しかし、2022年のロシアによるウクライナ侵攻が起こった時、私はちょうどハンガリーに留学していました。ウクライナから逃げてきた人々を目の当たりにしたことや、隣国で戦争が始まってしまったことを感じさせたあの重苦しい雰囲気は今でも忘れることができません。さらに、子守ボランティアでは、祖父が語ってくれたことと同じような想いを聞きました。 現在、世界各地で災害や紛争が起こり、さらに分断が進む社会の中に私たちは生きています。しかし、世界はつながっているからこそ、どこかで起こっている問題は、決して他人事ではないはずです。人間がお互いに協力して社会問題を解決するために、それぞれができる範囲で行動していかなければなりません。自分とは全く異なるバックグラウンドを持った他者を理解“しよう”とする「想像力」を使って、私は、OSIPPでたくさんのことを学び、多角的な視点から物事を考えることができる人になり、学んだことを社会や他者に還元できるように頑張ります。
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World Economic Outlook Seminar by IMF

2024年5月9日、International Monetary Fund(以下IMF)の経済分析担当者であるRui C. Mano氏とDiaa Noureldin氏を迎えて、IMFによる世界経済の見通しに関する特別セミナーが開催された。学生や教員も含め約60人が参加した。(写真左:Rui C. Mano氏、 右:Diaa Noureldin氏) 講演では、今後の経済成長の特徴について、緩やかではあるものの、安定しており、物価上昇に対応するための中央銀行による金利引き上げに対しても想定外に強靱であることが示された。政府や民間の消費が大きく、パンデミックによる過剰蓄積の傾向も緩和したという需要側の要因と、サプライチェーンが効率化されたことに加え、パンデミックによる国境封鎖が解除され移民労働者が増加したという供給側の要因が寄与したと説明があった。今後の見通しが変更になるリスク要因としては、プラスの影響として人工知能による生産性の向上などが予測される一方、ロシアのウクライナ侵攻に対する政治的な立場の違いが異なるグループ間の貿易量を減少させているなどの、地政経済学的な分断の激化がマイナスの影響として予測された。 また、金利政策が住宅価格に与える影響がパンデミック前後で変化したことや、同じ金利政策であっても住宅市場に与える影響が国によって異なることについても言及した。 Diaa Noureldin氏からは、近年の経済成長の停滞の要因について説明があった。経済成長は、労働、資本、労働と資本以外の質的要素(例えば技術革新など)であるTotal Factor Productivity(以下TFP)によって説明される。このTFPの減少が経済成長の減速の大部分を占めている。また高所得国を中心とした労働人口の高齢化が、労働成長を抑制し経済成長の鈍化に繋がっている。 経済成長を加速させるための政策シナリオとして、失業者への給付や積極的な労働者教育などによる労働参加率を増加させる政策や、人材配置の効率化、人工知能の活用は効果があるのではと予測した。 講演の後半は、質疑応答の時間が設けられた。人工知能の普及によって地域間や個人間の不平等が拡大する危険性や、GDPをはじめとした伝統的な指標やデータに対する信頼性の問題、アメリカと比較した際の日本の金利の低さの原因など、それぞれの関心に基づき様々な質問がなされた。IMFの調査員から直接話を聞くという貴重な機会であり、セミナーの終了後も、質問をしたい学生達が列を作っていた。 なお、今回の講演は2024年4月に公開されたWorld Economic Outlookという報告書の最新版に基づいて行われたものである。この報告書は4月と10月の年に2回更新され、以下のサイトにて公開されている。 World Economic Outlook: https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2024/04/16/world-economic-outlook-april-2024 また、IMFは日本やアジアなど国や地域を限定した経済見通しに関する報告書やポッドキャストを公開している。興味のある方はぜひ以下より参照されたい。 Regional Economic Outlook: https://www.imf.org/en/Publications/REO Podcasts: https://www.imf.org/en/News/Podcasts (OSIPP博士前期課程 山本葉月)
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2024年4月の研究業績

OSIPP基幹講座教員の4月の研究業績をご紹介します。 ・赤井伸郎 先生・二杉健斗 先生・二羽秀和 先生・山下拓朗 先生・遠藤勇哉 先生 Nobuo Akai(論文)“Evidence-based policy making in Japan’s public expenditure: compatibility of fiscal health and investing for the future” Asia Pacific Business Review PP 514-527(査読なし:招待)https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13602381.2024.2320543 Abstract:This article focuses on the introduction of evidence-based policy making (EBPM) in Japan, especially in the context of the Kishida administration’s Grand Design and Action Plan for a New Form of Capitalism. First, the introduction and current situation of EBPM in Japan is summarized. It, consists of three allows: key performance indicators (KPIs), policy evaluation, and administrative project review. These are evaluated and briefly compared to EBPM in the US and UK. Next, investment and expenditure for green transformation proposed in the Grand Design is assessed from the perspective of EBPM, pointing to potential pitfalls and what must be done to ensure wise use of public resources for economic growth and sustainability in the future in Japan. This may serve as a reference for other countries. Kento Nisugi coauthored with Kei Nakajima and Yohei Okada(論文)“The Sovereign Function Test Out of Thin Air? The Status of the Central Bank Determined Behind the Scenes in Certain Iranian Assets,” Journal of International Dispute Settlement, 00 (2024) 1-12 (advance publication)(査読有)DOI:https://doi.org/10.1093/jnlids/idae010 Abstract:On 30 March 2023, the International Court of Justice rendered its judgment on the merits of the case concerning Certain Iranian Assets, in which the Iranian central bank was not characterized as a company within the meaning of the Treaty of Amity. In so concluding, the Court relied upon the test focusing on the central bank’s sovereign functions and the purposes of the transaction at stake. Debate surrounds the origin and sources of inspiration of the sovereign function test, insofar as the majority’s minimum reasoning leaves an impression that it arose from thin air. This article explores the origin and the sources of inspiration of the test, concluding that the Court’s judgment affords the reading that the test was inspired, albeit clandestinely, by rules and practice specifically dedicated to the characterization of central bank activities, located in areas such as the laws of State immunity or responsibility, by judicial cross-referencing. Hidekazu Niwa(論文)“A Fiscal Theory of Central Bank’s Solvency: Perils of the Quantitative and Qualitative Monetary Easing” Japan and the World Economy (Accepted in March 30, 2024) (査読有)DOI:https://doi.org/10.1016/j.japwor.2024.101252 Abstract: The Bank of Japan has purchased long-term Japanese government bonds under the Quantitative and Qualitative Monetary Easing (QQE). To study monetary policy after the Bank of Japan exits the QQE, we develop a model in which the fiscal authority commits: (ⅰ) not to making fiscal adjustments needed to stabilize government debt and (ⅱ) not to providing financial supports for the central bank that incurs losses on its balance sheet due to a decline in the price of long-term bonds. Within this framework, this study investigates how the interaction between these commitments reduces the ability of monetary policy to control inflation after liftoff from the zero lower bound. We consider a situation in which the central bank that holds long-term bonds raises the nominal interest rates and show two key results: (ⅰ) when the Taylor principle is violated, under certain conditions, inflation right after liftoff cannot overshoot the central bank’s target; (ⅱ) when the central bank follows the Taylor principle, under certain conditions, it cannot prevent the economy from converging to the deflationary steady state. Takuro Yamashita coauthored with Hien Pham(論文)“Auction Design with Heterogeneous Priors” Games and Economic BehaviorVolume 145, Pages 413-425 (Published: May 2024 )DOI: https://doi.org/10.1016/j.geb.2024.04.002 Abstract:We consider an auction design problem with private values, where the seller and bidders may enjoy heterogeneous priors about their (possibly correlated) valuations. Each bidder forms an (interim) belief about the others based on his own prior updated by observing his own value. If the seller faces uncertainty about the bidders’ priors, even if he knows that the bidders’ priors are within any given distance from his, he may find it worst-case optimal to propose a dominant-strategy auction mechanism. Takuro Yamashita coauthored with Roberto Sarkisian(論文)“Optimal student allocation with peer effects” Review of Economic Design(Published: 14 March 2024)DOI: https://doi.org/10.1007/s10058-024-00349-x Abstract:This paper studies an optimal assignment problem of heterogenous students to schools with a particular kind of preference complementarity: peer effects, defined by the average ability of those in the same school. The tractability of the problem allows us to characterize the optimal assignment mechanism, which has a simple “(stochastic) pass-fail” structure. Its shape is mainly determined by the convexity/concavity of the attainment function, interpreted as the preference for/against having diverse-ability students in different schools. We also provide comparative statics as to when more or less mixture of heterogenous ability types would be desirable. 遠藤勇哉(論文)”ミサイルが飛ぶと女性候補者は支持されない? -不安を煽る情報とジェンダーステレオタイプの活性化-”『公共選択』2024(81)1-15(査読有)DOI: https://doi.org/10.11228/pcstudies.2024.81_1 概要: 近年、伝統的に男性がリーダーシップを発揮すると認識されている政策領域で、さまざまな事件が有権者の不安を増大させている。こうした不安が有権者のジェンダーステレオタイプを活性化させれば、有権者は不安を解消しようとステレオタイプと一致しない女性候補者を避ける可能性がある。本稿では、候補者とは関係のない不安を煽る情報、特に男性的ステレオタイプを活性化させる情報が、有権者の女性候補者に対する評価に与える影響をコンジョイント実験を用いて検証する。実験の結果、ミサイル発射に対する不安を煽る情報を受け取った有権者は、そうでない有権者よりも女性候補者を支持しないことが明らかとなった。特に男性有権者においてこの効果は顕著であったが、女性有権者の女性候補者への支持は、同様の情報を受けても影響を受けなかった。これらの結果は、候補者とは無関係であっても、ジェンダーステレオタイプを活性化させる情報に接することが有権者の投票行動に影響を与えることを示唆している。 赤井伸郎(その他の記事)「ANA・JAL、コロナ前の業績超えでも「税金・着陸料の軽減政策」が続く理由」ダイヤモンド・オンライン(2024年3月28日) https://diamond.jp/articles/-/341082 概要:コロナパンデミックから脱却し、世界では、航空需要がコロナ前を取り戻している。JAL、ANAをはじめとする日本の航空会社および空港は、コロナパンデミックで財務的に厳しい状況に追い込まれたが、今は改善しつつある。日本の空の移動を支える日本の航空会社および空港に対し、行われる2024年度の行政支援について整理した。 赤井伸郎(その他の記事)「空港周辺の自治体に配分される「騒音対策費」、2024年度の変更でどうなる?」ダイヤモンド・オンライン(2024年3月29日) https://diamond.jp/articles/-/341083 概要:コロナウイルスによるパンデミックを受けて行われてきた、運営権を民間に売却する「コンセッション方式」による空港への直接的な行政支援は、2024年度にはなくなることとなった。一方で、空港周辺自治体へのサポートの見直しが行われる。その背景を整理した。
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山下拓朗先生 第20回(令和5(2023)年度)日本学術振興会賞・日本学士院学術奨励賞受賞インタビュー

第20回(令和5(2023)年度)日本学術振興会賞・日本学士院学術奨励賞(日本学術振興会賞受賞者25人を対象に選考され、その中から6人以内に授与される賞)を受賞された山下拓朗教授にインタビューを行いました。今回受賞した研究課題は「制度設計と情報設計の理論およびオークションや市場・組織分析への応用」です。 今回受賞された「制度設計(メカニズム・デザイン)」の研究についてお聞かせください。 私たちの社会・経済においては、日々様々なルールをもとに活動を行っています。ルールが変われば人々の行動も変わってくるため、制度設計者の観点からどのようなルールを設計すべきか、ということが重要な問いになってきます。この大きな問いの中で、「複数の設計主体が存在する状況」(例:複数の国が、保護や規制の制度を設計することによって多国籍企業の誘致をめぐって競争するような状況)や「制度に参加する経済主体が必ずしも経済学的な意味で合理的でない状況」(例:消費者が自分の利得を最大にするような行動を取らない状況)を含むいくつかの分野の研究にこれまでに関わってきました。これらの具体的な受賞理由に挙げられている研究以外にも、「制度に参加する経済主体について設計者が限られた情報しか持っていない場合の頑健な制度設計」や「設計者から複数への参加主体への情報設計」に関する研究にも取り組んできました。 受賞理由に「現実の経済・社会問題への応用を強く志向している点」や「問題を扱う基礎を築いたという点」が重要であるとありますが、具体的にはどのようなことでしょうか。 制度設計理論には、他の理論と同様、先人による知識の蓄積がありますが、ベースラインとなる既存の理論モデルは、さまざまな文脈に応用することを想定して個別事象のエッセンスだけを取り込んだものが多く、その含意をより現実的な事象に適用しようとすると理論と現実のギャップは避けられません。そのギャップがあまりに大きいのであれば、理論を修正してより現実に近づける必要があります。例えば、ベースラインのモデルから重要な現実世界の要素が抜けている場合は、それらをモデルに取り込む必要があります。また、より現実に近づけた問題を解くときには基本的な理論ツールが使えない場合もあるため、問題を扱うためのツールの開発から始めなければならないこともあります。私の研究はこのような理論と現実のギャップを縮める試みの結果と考えられると思いますし、その試みの中で理論的発展に貢献できるところに研究の面白さを感じています。今回の受賞についても、そのような方向性を支持し、応援していただいたことによるものと思います。 受賞の感想や授賞式の様子を教えてください。 受賞の知らせを聞いたときは、驚くと同時に嬉しく思いました。2024年3月7日に明治記念館で行われた両賞の授賞式では、秋篠宮両殿下と言葉を交わす機会もいただき、あらためて今後の研究への思いを新たにしたところです。個人的には、他の受賞者の方々の様々な研究テーマがいずれもとても面白く、半日のイベントではありましたが自分の視野を広げてもらった思いです。とりわけ日本学士院学術奨励賞受賞者の他の5名の方については、いずれもその分野でのブレイクスルーを成し遂げていることが部外者の私にも伝わってくる内容で、衝撃を受けました。6人目の受賞者に選んでいただいたことは光栄ではありましたが、まったく慢心できるような状況ではないことを肝に銘じる機会になりました。 前回のインタビューや授業を通して、山下先生が楽しんで研究に取り組まれている様子が伝わりました。その上で、さらに今回のような業績を残されていますが、研究者としての秘訣はありますか? この研究をしていて大きな喜びを感じる瞬間は、ぼんやりと感じている社会・経済問題に関して、具体的な形で制度設計問題として書き下せたときです。特に、それが既存研究によってカバーされていない新しい問題だと分ったときは、研究者としてさらに喜びが増します。また、その問題を実際に解き新たな知見を得られた瞬間を、共同研究者や同僚、近しい分野の研究者と分かち合う時間はとても楽しいものです。しかし、その後研究が論文として出版にこぎつけるまでは地獄の針山が待っていることもあり、研究が思うように進まないことも多いです。研究が評価されない時にめげないためには、自分が「こういうことを知りたいからこの研究をしているんだ」と思える研究をすることが大事だと思います。また、学部生だった時の指導教員の先生に「10〜20個あるアイデアの中で、論文として出版されるのは1個ぐらいだという心持ちで研究した方がいい」と言われたのが心に残っています。出版に至るようないいアイデアはなかなか思いつかないものの、ブレイクスルーするアイデアはあるとき突然降ってくるものだと信じて、アイデアを出すこと自体は欠かさないようにしています。 これまでされてきた研究を応用したい現実の問題はありますか? 理論的な観点から興味を持っている現実の問題としては、経済学的な意味での合理的でない主体に対する設計問題にはとても興味を持っています。行動経済学で想定されるような限定合理的な経済主体にも興味がありますし、そもそも、体内の臓器や植物、昆虫といった人間以外の主体でもいいのかもしれません。 昆虫ですか…?! はい、これらの「非伝統的な」主体に対する設計問題について何かできたら面白そうだというのが、最近個人的に流行っている妄想です(笑) 最近、テレビで人間以外の動植物なども活発にコミュニケーションを取っているということを知り驚いたのですが、このようなコミュニケーションを理解するために、情報設計(インフォメーション・デザイン)の枠組みが役に立つのではないかと思っています。情報設計では、情報を送り手が情報の伝え方などを設計し、受け手がその情報を元に信念を更新し最適な行動を取るという風にモデルを立てるのですが、情報の受け取り手は必ずしも経済的な合理性がある主体に限られません。従って、「植物が化学物質を出し、それを受け取った昆虫が植物の敵を捕える」、「脳が物質を出し、それを受け取った細胞が活性化する」といった類のコミュニケーションの事象に応用するのも面白そうだと思っています。 (OSIPP博士後期課程 池内里桜) 日本学術振興会賞https://www.jsps.go.jp/j-jsps-prize/kettei.html 日本学士院学術奨励賞(日本学術振興会賞受賞者25人を対象に選考され、その中から6人以内に授与される賞)https://www.japan-acad.go.jp/japanese/news/2024/011201.html ※産経新聞「秋篠宮ご夫妻、日本学術振興会賞授賞式ご臨席 若手研究者への支援「大きな意義」」(2024年3月7日配信)に山下先生の写真(右端)が掲載されています。
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2024年度OSIPP入学オリエンテーション

2024年4月3日(水)、OSIPP棟講義シアターとオンラインでのハイブリット形式で、OSIPPに入学する博士前期課程・博士後期課程の学生に対し、入学オリエンテーションが行われた。 中嶋啓雄研究科長の挨拶に続き、教員の自己紹介、カリキュラム、研究倫理、学生生活、人権問題など、OSIPPでの学生生活に必要となるトピックに関する説明が、担当の教員によって行われた。 今年度はオリエンテーションの後に留学生を対象にした説明会も行われ、初めて日本に住む学生が抱く疑問や不安に対しては、OSIPPの教員や学生が丁寧に寄り添う体制があるので、気軽に相談してほしいということが強調されていた。 オリエンテーションの後半ではOSIPPライブラリー職員による文献検索ガイダンスと資料室(OSIPPライブラリー・経済学研究科資料室・法学研究科ローライブラリー)ツアーが実施され、明日からでも研究や学習のスタートダッシュを切れるように案内が行われた。 <懇親会開催>オリエンテーション後はOSIPP院生会主催の懇親会が開催された。オリエンテーションの開始時には緊張した面持ちだった新入生も、一日を通して互いに打ち解け、自身の専攻分野などに関係なく多くの学生が交流を深めていた。また、OSIPPの在学生に履修について相談している新入生も見られた。 ある新入生は「OSIPPの学生が多様性にあふれていることに驚いた。ここでの学生生活で多くのことを吸収したい」と意気込みを語っていた。 (OSIPP博士前期課程 辻本篤輝)
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2024年3月の研究業績

OSIPP基幹講座教員の3月の研究業績をご紹介します。 ・髙田陽奈子 先生・赤井伸郎 先生 Hinako Takata(論文)“Dissecting Stakeholder Participation in UN Human Rights Treaty Body Activities with Normative and Empirical Approaches: A Comparison of NGO and NHRI Participation,” German Law Journal (2024), 1–25. https://doi.org/10.1017/glj.2023.109(査読あり)※本論文は、大阪大学の助成により、オープンアクセスとなっています。 Abstract:By addressing the question “Are the roles and values of stakeholder participation qualitatively different for non-governmental organizations (NGOs) and national human rights institutions (NHRIs), and if so, how?” this article dissects stakeholder participation in UN human rights treaty body activities. First, it normatively posits that stakeholder participation in treaty body activities carries three values, which weigh differently based on the actor and the treaty body activity concerned: facilitating “bounded” national deliberations, promoting international deliberations on human rights treaty standards, and supplementing the treaty bodies’ fact-finding capacity. It offers concrete normative guidance for treaty bodies on their engagement with NGO and NHRI participation to maximize the benefits of these values. It then empirically analyzes their current practice in light of the above-mentioned normative guidance. This article contributes, first, to the theorization of stakeholder participation in treaty body activities, which has been discussed but only in generalized or fragmented ways in previous studies. Second, it supports the effectiveness and legitimacy of treaty bodies by endorsing their practice that is consistent with the guidance and finding space for improvement. Finally, it provides a rationale for establishing and strengthening NHRIs by showing that NHRI participation has unique roles distinct from those of NGOs. 赤井伸郎(その他の記事)「地方財政、次の荒波に備えよ」『十字路』日本経済新聞(2024年2月22日付夕刊)http://akainobuo.starfree.jp/jyu-ji-ro.html 概要:2024年度の地方財政の姿が固まった。地方交付税は、企業収益が好調なこともあり、調整後の金額も、約3060億円増える。 臨時財政対策債は、新規発行がゼロで、借り換え分もほぼ半減。一方、地方財政は物価高による歳出増加や人口減少による税収減、人材不足による成長の制約、高齢者増加に伴う社会保障負担、災害対策など多くの課題に直面する。負担感が希薄になりがちな(地方全体で返済する)地方債務の残高を国全体で減らし、地方自治体は将来に備えて財政を律しないといけない。凪(なぎ)の時にこそ、次の荒波を見定め、船を手入れして、腕を磨く必要がある。
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【院生紹介】OSIPPでの学生生活を振り返って(久保知生さん)

私は2023年4月に大阪大学法学部国際公共政策学科からOSIPPに入学し、早期修了プログラムを利用して2024年3月に博士前期課程(修士課程)を修了します。ここではOSIPPでの生活を簡単に振り返りながら、大学院に進学することの意味を自分なりに述べたいと思います。 振り返ると、早期修了プログラムを利用して1年で修士課程を終えるというのは想像以上に大変で、いつも何かに追われていました。週に7日OSIPP棟に行く、という週も少なくなかったように思います。ただ、決して辛くはありませんでした。その理由の一つには、修士課程の編集員メンバーの仲が良かったことが挙げられます。よく授業の後で一緒にご飯を食べたり、リフレッシュルームで談笑したりしていました。思えば彼・彼女らと切磋琢磨した一年間でした(もちろん他の学生とも)。 このプログラムは学部4年次に10単位までOSIPPの単位を取得できるため、OSIPPに入学した時点でミクロ・マクロ・計量といった経済学のコア科目は取得済みでした。そのため、修士課程の1年間は、主にあらかじめ論文を読んでディスカッションをするような授業を履修していました。とりわけ秋冬学期は授業に出ながら修士論文を執筆していたため、飛ぶように時間が過ぎていきました。10月に学期が始まって気がつけば年が明け、修士論文の提出期限が迫ってきました。論文提出後はその忙しさから解放されたことで、1月の残り20日がまるで一年のように長く感じたことを記憶しています。 今になって思うと、かなり期限に追われていたのだと思います。 OSIPPで履修した授業の中でも、鎌田先生のEconomics of crimeとData Management and Analysisは本当に履修して良かったと思う授業でした。端的に言えば、洗礼を浴びたんですね。毎週のように自分の実力不足・理解不足を痛感しました。これらの授業を履修したことで、自分に課す「最低限」のレベルが上がりました。授業で扱ったことは就職後にも活かせると思うので、入社前に学べて良かったです。 最後に、修士課程修了を目前に控えた今、自分なりに思う大学院に行く意味を述べたいと思います。ここで想定しているのは、博士後期課程(博士課程)まで進むつもりはないけれど、修士課程には関心がある方です。修士課程で学ぶ意味を一つ選ぶとすれば、知らないこと・分からないことを自分で学ぶ力がつくということではないかと思います。学部生時代、私は大学院に進学すれば、知らないことをもっと知ることができると思っていました。でも、実際はそうではありませんでした。新たに学んだことが多いのも確かですが、それ以上に知らないことが増えました。そのときに、最低限のことだけ教えてもらって、あとは自分で勉強するというのが学びの本来の姿なのだということに気づきました。  大学院に行かなくても、最近はネット上に情報があふれているから自分で勉強できるのでは?という意見もあると思います。でも、一人で勉強できていたとしても、使える知識として体系的に学べているとは限りません。複数のテキストを渉猟しながら体系的に物事を理解するというのはなかなか難しいように感じます。一方で、大学院では授業資料や、違った角度からの先生の一言で急に理解が深まったりすることが良くあります。 大学院といえば何やら難しいことをする場所、というイメージがあるかも知れませんが、知らないことを学ぶ上でのベースになる知識を身につけるには最適の場所だったと改めて感じています。4月からは民間企業に就職しますが、OSIPPで身につけた力をさらに伸ばせるように頑張ります。 (OSIPP博士前期課程 久保知生) 【院生投稿】久保知生さん(OSIPP博士前期課程・早期修了プログラム)
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2023年度 「優秀学位論文賞」受賞者発表!

当該年度に提出されたすべての課程博士論文及び修士論文を対象に、それぞれ優秀学位論文が発表されました。 優秀学位論文の選考はOSIPP優秀論文選考委員会が行い、教授会が選考委員会からの推薦をうけて下記のとおり決定されました。 優秀学位論文賞受賞者には、OSIPP学位記授与式にて賞状が授与されます。受賞者の皆さん、おめでとうございます!
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2024年2月の研究業績

OSIPP基幹講座教員の2月の研究業績をご紹介します。 ・二羽秀和 先生・二杉健斗 先生・遠藤勇哉 先生・髙田陽奈子 先生・和仁健太郎 先生二羽秀和(受賞)2023年度大銀協フォーラム研究支援「特別賞」受賞テーマ:国債のデフォルトと物価安定の関係性について Hidekazu Niwa coauthored with Eguchi Masataka and Takayuki Tsuruga(論文) “Should the fiscal authority avoid implementation lag?” forthcoming in Oxford Bulletin of Economics and Statistics (Accepted in February 14) (査読あり)https://doi.org/10.1111/obes.12604 Abstract:Implementation lags are a concern of policymakers as they may reduce the efficacy of fiscal policy. Using a standard New Keynesian model with an effective lower bound on the nominal interest rate, we compare the impacts of fiscal stimulus on output across various lengths of implementation lag. We show that despite concerns among policymakers, implementation lags may enhance the efficacy of government purchases on output when the economy is caught in a liquidity trap. Yuya Endo coauthored with Yoshikuni Ono(論文)“The Underrepresentation of Women in Politics: A Literature Review on Gender Bias in Political Recruitment Processes” Interdisciplinary Information Sciences  Issue: Online first (査読あり) DOI: https://doi.org/10.4036/iis.2024.r.01Abstract:This article discusses the underrepresentation of women in the political arena worldwide by reviewing the relevant literature in the field of political science. Despite women’s increasing participation in various fields, the average percentage of female legislators in OECD countries is only 33.83%, with only two countries achieving 50% representation. Increasing the number of female legislators is crucial to reflect the policy preferences of female voters and increase women’s future political participation. However, multiple studies suggest that women face gender bias at each of the three stages of the political recruitment process: self-selection of potential candidates, nomination of aspiring candidates by political parties, and selection of candidates as representatives by voters. We review how gender bias may manifest at each stage of the political recruitment process to understand why there is a significant gender gap in political representation. Additionally, we introduce research discussing ways to reduce the gender gap in political representation. 二杉健斗(論文)「安全保障化する外国直接投資――対内・対外投資規制の投資条約による統御」法律時報96巻1号(2024年)30-35頁概要:特集「経済安全保障の法的統御」のうちの1編として、近年先進国を中心に導入と強化の進められている、安全保障を理由とした外国直接投資の規制を投資条約の諸規定に照らして分析した。特に、条約上の規律の乏しい対外投資規制に対し、対内投資規制については、投資の受入れを義務づける自由化型の投資条約のみならず、投資受入後の保護義務しか課さない保護型の条約においても問題となり得ることや、留保や例外規定の援用可能性が問題となり得ること等を論じた。 和仁健太郎(論文) 「領海沿岸国の保護権と外国軍艦の免除」『阪大法学』73巻5号(2024年)895-931頁https://doi.org/10.18910/93893 概要:領海において無害でない通航をする外国軍艦に対し、沿岸国は、いかなる措置をとることができるか。本稿は、領海沿岸国の保護権と外国軍艦の免除との関係について、(1)この問題について論ずる際に海洋法条約32条の「例外」という言葉に引きずられてはならないこと、(2)この問題は領海沿岸国の保護権の性質の側から考えるのではなく、軍艦の免除原則の射程の問題として考えるべきであることを論じた。 髙田陽奈子(研究ノート) 「日本の裁判所における自由権規約の解釈 ー国際法上の条約解釈規則の具体的適用方法、一般的意見の法的意義、そして日本の裁判所による解釈の国際法上の帰結・影響ー」阪大法学73巻5号(2024年2月)989-1043頁、https://doi.org/10.18910/93896  概要:本研究ノートは、国内人権訴訟に携わる法実務家に対して、自由権規約をはじめとする人権条約の解釈のあり方についてまとまった指針を提供することを主要な目的としている。そのために、本研究ノートでは、自由権規約9条1項の「何人も、恣意的に逮捕され又は抑留されない」という規定の解釈という具体例を題材に、用いられるべき条約解釈規則とそうした規則の具体的な適用方法、自由権規約委員会による一般的意見やそれ以外の国際的な機関による諸文書の自由権規約の解釈における法的意義、そして、国内裁判所による自由権規約の解釈がもたらす国際的な帰結・影響について、最新の国際法実践を踏まえながら詳しく論じている。なお、本研究ノートは、昨年、令和4年(ワ)第528号自由権規約に基づく損害賠償請求事件において東京地方裁判所に提出した意見書をもとにして執筆したものである。 髙田陽奈子(裁判意見書) 「意見書:人権条約の解釈における、人権条約機関の『一般的意見』・『一般的勧告』の法的意義について」名古屋地方裁判所民事第9部、令和4年(行ウ)第92号、93号、94号、在留資格変更許可処分義務付け等請求事件(2024年2月19日提出) 概要:本意見書は、人権条約の解釈における、人権条約機関の「一般的意見」・「一般的勧告」の法的意義について、国際法・国際人権法の専門家という立場から意見を詳述したものである。 Kento Nisugi coauthored with Nisuke Ando and Shotaro Hamamoto(その他の記事)“Permanent Court of Arbitration (PCA),” Max Planck Encyclopedia of Public International Law (Online edition, 2024) (査読あり)https://opil.ouplaw.com/display/10.1093/law:epil/9780199231690/law-9780199231690-e71 Abstract:This is an updated entry to Max Planck Encyclopedia of Public International Law on the Permanent Court of Arbitration, whose authors draw upon the previous version written by Nisuke Ando in 2006. It describes the Court’s legal basis, organization, functions and procedure and explains several significant developments in its practice throughout its history, highlighting the important role of the Court in the promotion of peaceful settlement of international disputes and the rule of law. The entry was formally submitted in May 2023 and published in January 2024.
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教員紹介:遠藤勇哉 助教

OSIPP政治学の教員である遠藤勇哉先生にインタビューを行いました。遠藤先生は政治行動論が専門であり、東北大学で情報科学の博士号を取得しました。東北大学で助教を勤めた後、2023年9月16日付でOSIPPに助教として着任しました。 どんな研究をされていますか 主に「選挙で有権者が何を手がかりに政治行動を行っているのか?」という問いに基づいた研究をしています。特に、ジェンダーステレオタイプ(女性とはこういうもの、男性とはこういうものという決めつけた見方)、候補者の外見といった観点からアプローチしています。 この研究においては、ジェンダーステレオタイプと有権者の政治行動にはどのような関係があるのかを検証しています。私たちの研究で、日本の有権者は政治家の性別毎に得意な政策や当てはまる性格があると認識していることが明らかになっています。では、有権者はいつ、どのように意思決定の手がかりとしてジェンダーステレオタイプを用いているのでしょうか。現在の私の関心はここにあります。たとえば、「女性らしくない」と有権者に認識された女性政治家はどのように評価されるでしょうか。これらのことを主にサーベイ実験を用いて明らかにしています。 ジェンダーステレオタイプが有権者の政治行動へ与える影響は、多くの面で未だ明らかになっておらず、その解明を通じて、政治における男女の格差縮小へ繋がる手がかりや方策を発見し、社会全体の発展に寄与できることを目指しています。また、東北にいたことから復興と政治の研究にも取り組んでいます。 もともとジェンダーステレオタイプや候補者の外見といった問題に関心があったのですか 最初からジェンダーステレオタイプに関心があった訳ではありません。一時期は、政治とは無関係なイベントが有権者の政治行動に与える影響について関心を持っていました。例として修士課程で読んだアメフトの試合の研究を挙げますが、2015年の大学アメフトのチャンピオンシップであるオハイオ州立大学とオレゴン大学の試合にて、勝利した大学の学生(この試合ではオハイオ州立大学)の間で、そのときの大統領に対する評価が高まるといった現象が見られます。一方で、試合に負けた大学(この試合ではオレゴン大学)の学生の大統領への支持率は大幅に低下します。ただ、この効果は一週間も持続しない。この研究は、政治と無関係なアメリカンフットボールの試合の結果が人々の気分に影響を与え、その気分が政治行動に影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。それで有権者は何の情報を手がかりに政治行動をしているんだろうと、興味をもつようになりました。 また、ジェンダーステレオタイプに関する論文を読んで、面白いと思ったことも関係しています。Ono and Yamada(2020)は、女性候補者は男性候補者に比べて不利な立場に置かれていて、それだけでなく、彼女たちが有権者のジェンダーステレオタイプから外れた行動を取るとpunishment(処罰)を受けるとしています。具体的には、支持される確率の低下です。そうなると、なかなか女性の候補者は身動きが取りづらいですよね。そうした事例を明らかにしていて、面白いと感じました。 それから、候補者の外見研究には私自身の投票の経験が関係しています。私が高校生の時は、まだ18歳の選挙権がなかったので、初めて投票に行ったのは学部3年生の時です。実際に投票に行ってみると、何を手がかりにして投票すれば良いのか分かりませんでした。そこで、候補者の顔を参考になんとなく政治家として良さそうな人に投票したわけです。学校では、さながら義務のように投票に行く重要性を教わりますが、多くの有権者は誰に投票するか迷うのではないでしょうか。いったい有権者は何の情報を手がかりにして投票しているのだろうという興味が湧き、より深く知りたいと思うようになりました。 研究者を目指したのはいつ頃ですか 博士前期課程を終えたら民間企業に就職しようと思っていました。実際に内々定もいただいていたのですが、お世話になっていた先生から東北大学の博士後期課程に来ないかという話をいただきました。「政治学と心理学を掛け合わせた研究って面白いな」と思っていた時期だったので、人生は一回きりですから、思い切って進学することにしました。 先生にとって、研究の魅力は何ですか ジェンダーステレオタイプというのは、人々の思い込みに過ぎません。例えば、男性政治家は女性政治家に比べて防衛政策に対する知識が多く、女性政治家は男性政治家に比べて育児政策に対する理解が高いなどと言われることがあります。このように、多くの有権者は、政治家、とりわけ女性の政治家をジェンダーステレオタイプというレンズを通して見がちです。有権者がこのような行動を取る理由を理解することは民主主義の機能の有効性を理解する上で重要で、興味深いと思っています。 今学期はどのような授業を担当されていますか 今学期は「現代の法と政治を考える」という授業を担当しています。週二回の開講ですが、それぞれ別の内容です。火曜日は選挙や政党、国会について、学術論文の知見をもとに理解する授業です。現代日本政治の授業ですね。水曜日の授業では、私の専門に近いテーマである政治心理学を扱っています。有権者がどのような手がかりで投票するのかやメディアが政治に与える影響、政治において感情が果たす役割とかね。 最後に、OSIPP生へのメッセージをお願いします 博士前期課程までは学問に興味関心があれば「ノリ」で進学して大丈夫だと思います。実際のところ、博士前期課程で学ぶ“ものの考え方”や“論理的な文章作成”は現実社会で活かせられると思います。実際に、私が博士前期課程で就職活動をした際は、その部分を評価して頂いたと思います。一方で、博士後期課程まで進みたい方は、しっかり計画した方が良いと思います。例えば、博士号取得後にどこで働くのか。そこから逆算して何の研究をして、何年で博士号を取得することが望ましいのか、所属研究室の研究テーマと自身の関心が一致しているのかといったところです。 また、向こうから来るのを待つのではなくて、自分から動くことがとても大事です。良い研究アイデアがあるのであれば「先生、これ一緒にやりませんか?」と声をかけることです。あるいは、オフィスアワーを積極的に活用するとか。これは、今後も研究を続ける場合だけでなく、会社で働く場合にも当てはまると思いますので、積極的に自分から行動するということは大事にしてください。 (インタビュー時期2023年秋・OSIPP博士前期課程 久保知生) 〈推薦図書〉■ 候補者の外見と有権者の行動に関心がある方向け『第一印象の科学―なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか』(みすず書房)アレクサンダー・トドロフ(著)、作田 由来衣子(監修)、中里 京子(翻訳)■ ジェンダーと政治に関心がある方向け『女性のいない民主主義』(岩波新書)前田 健太郎(著)■ 博士前期課程に進学したい方向け『DEMOCRACY FOR REALISTS』(Princeton University Press)Christopher H. Achen and Larry M. Bartels(著)未邦訳。先生曰く、「英語だけど、そんなに難しくないよ!」とのことです。 〈参考文献〉■ Busby, E. C., Druckman, J. N., & Fredendall, A. 2017. The Political Relevance of Irrelevant Events. The Journal of Politics, 79(1), 346-350.■ Ono, Y., & Yamada, M. 2020. Do voters prefer gender stereotypic candidates? Evidence from a conjoint survey experiment in Japan. Political Science Research and Methods, 8(3), 477-492.■ 加藤秀一.『はじめてのジェンダー論』.有斐閣ストゥディア, 2017 ****助教 遠藤勇哉研究テーマ:ジェンダーと政治、政治行動、政治心理専門分野:政治行動論学位:博士(情報科学)
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韓国 慶煕(キョンヒ)大学超短期プログラム(2023年度)

2023 OSIPP Special Winter Program on Society and International Relations of Contemporary Japan, January 15 – 19, 2024 (写真:慶煕大学学生、中央左:中嶋研究科長、中央右:河村准教授) 2024年1月15日~19日の5日間、韓国の慶煕(キョンヒ)大学から16人の学生を受け入れ、短期学生交流プログラムが開催された。慶煕大学はOSIPPが部局間交流協定を結んでいるパートナー校の1つである。 初日は、中嶋啓雄OSIPP研究科長によるプログラム開講の挨拶の後、前川和歌子准教授による講義: Japan’s Approach to Peacebuildingが行われた。 2日目は、片桐梓准教授による講義: The Rise of China and East Asian Securityに続き、南和志准教授・中嶋教授のゼミ生25人が参加して学生たちのディスカッションが行われた。まずはゼミ生 から議題のプレゼンテーションが行われ、続いて日韓の学生たちによる議論があった。最初に「台湾問題に対する日韓の取りうる対応」について議論が交わされた。次に、日韓の深刻な社会問題である少子化と人口減少について意見が交わされた。このテーマでは、「社会規範が女性の役割を無意識レベルから規定している」「日本は総合職というポストがメジャーだが、韓国はもっと専門性をもったポストが多いことによって、女性が専門性を身につけて社会進出しやすい」といった、両国の社会規範や労働参加意識の相違、その結果としての労働市場の差などについての言及があった。学生たちが、アジアの政治情勢から、身近なキャリア選択の話題に至るまで、様々なトピックについて興味を持って交流を深めている様子が印象的だった。 3日目には、二杉健斗准教授による講義: Contemporary International Law Issues in East Asia、続いて高田陽奈子准教授によるHuman Rights Protection in Asia: Do European and Inter-American Models Work?をテーマにした講義とディスカッションが開催された。 4日目は、石瀬寛和准教授による講義: Exchange Rate and Sovereign Crisis、続いて生藤昌子教授による講義: Environmental Policies in Japan が開催された。 最終日の5日目は、河村倫哉准教授による講義: Are Multicultural Policies Possible in Japan? で締めくくられた。最後に、中嶋研究科長からプログラムの修了証が一人一人に手渡され、学生たちは達成感のある表情だった。 (OSIPP 博士前期課程 花山愛歩)
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2024年1月の研究業績

OSIPP基幹講座教員の1月の研究業績をご紹介します。 ・山下拓朗 先生・前川和歌子 先生・髙田陽奈子 先生 山下拓朗(受賞)第20回(令和5(2023)年度)日本学士院学術奨励賞を受賞https://www.japan-acad.go.jp/japanese/news/2024/011201.html Wakako Maekawa(論文)“United Nations peacekeeping operations and multilateral foreign aid: Credibility of good governance” World Development Issue: Online first (査読あり) DOI: https://doi.org/10.1016/j.worlddev.2024.106531 Abstract:Does hosting UN Peacekeeping Operations (UN PKOs) increase multilateral foreign aid inflows into civil war affected countries? Under what conditions do UN PKOs make multilateral foreign aid effective, enhancing governance quality? Multilateral foreign aid agencies increasingly focus on good governance as an allocation criterion. However, multilateral aid assistance faces dilemmas when allocating aid since it undermines the credibility of government commitments to good governance. This study argues that UN PKOs mitigate such uncertainty by initiating democratization, capacity-building, and political participation while mitigating political violence, thereby increasing the multilateral aid inflows. In missions involving these initiations, multilateral aid effectively enhances governance quality. These arguments are tested using a sample of countries that have experienced civil wars between 1991 and 2009. The findings suggest that UN PKOs increase the multilateral aid inflows. Moreover, increasing multilateral aid is more effective in improving the governance quality when missions have capacity-building or electoral tasks. 髙田陽奈子(論文)「人権条約における、条約当事国の統治理念・体制の多様性という難題--人権条約機関による「手続的アプローチ」は適切な解決策か」憲法研究13号(2023年)https://www.shinzansha.co.jp/book/b10045232.html 概要:憲法と人権条約との間の決定的な差異の1つとして、憲法が1つの国のみを対象とするのに対し、人権条約は多数の国を対象とするという点がある。国内裁判所やその他国家機関が、特定の1つの国の現実とそこで共有された統治理念を前提として憲法を解釈適用するのに対し、人権条約機関は、人権条約の運用において、国内統治理念・体制において極めて多様な条約当事国を同時に規律しなければならない。そのような中で人権条約機関は、いかにして、条約当事国の多様な現実やニーズに応えることができるだろうか。そしてその際、人権条約機関は、伝統的国際法の重要原則である、政治体制間の対等性とはどのように折り合いを付けるのだろうか。本稿では、このような国際人権法全体を通底する根本的な問いに答えるための第1歩として、まず、人権条約機関が民主的国家を非民主的国家よりも規律の厳格さにおいて優遇すべきかという議論を整理し、次に、近年人権条約機関の実践において司法審査基準の1つとして発展している「手続的アプローチ」が事実上そのような機能を果たしていることを示したうえで、最後に、そのことが、伝統的な国際法における政治体制間の対等性原則との関係でどのように評価されるべきなのかについて論じている。 髙田陽奈子(判例評釈)「ヨーロッパ人権条約と国際スポーツ法の交錯――性分化疾患をもつ女性アスリートの権利とスポーツにおける公平な競争(Semenya v. Switzerland, 11 July 2023 [小法廷])」人権判例報7号(2023年)(査読あり) https://www.shinzansha.co.jp/book/b10045085.html#  概要:キャスター・セメンヤ氏は、南アフリカ国籍の女性陸上競技アスリートであり、2009年以来、複数の世界陸上競技選手権やオリンピックの女性800メートル種目において金メダルを獲得するなど輝かしい成績を収めてきた。しかし、セメンヤ氏には、生まれつき、性染色体や性器、性線などの発達が非典型的な状態(「性分化疾患」 )のため、男性ホルモンであるテストステロンの分泌量が平均的な女性よりも相当程度高いという生物学的特徴がある。このため、セメンヤ氏の活躍は、スポーツにおける公平な競争と性のあり方に関する国際的な議論を巻き起こした。そうした議論を背景に、世界陸連は、女性競技における公平な競争の確保を目的として、性分化疾患をもつ女性アスリートが女性区分で国際競技大会に出場するためには、ホルモン治療によりテストステロンの値を一定値以下に抑えなければならないとの規則を制定した。この判例評釈が対象とするセメンヤ事件判決は、スイスを形式的な被申立国としつつ、実質的には、非国家主体たる世界陸連が制定したそうした規則の、ヨーロッパ人権条約との整合性を審査したものである。この判例評釈では、セメンヤ事件判決を要約したうえで、この判決がもたらす示唆について、とくに、国際スポーツ法におけるヨーロッパ人権裁判所の位置づけ、スポーツ法に固有の諸価値と人権との調和のあり方、そして国際スポーツ法を私法的秩序として性格づけることの限界、という点から論じている。 髙田陽奈子(裁判意見書)「意見書:自由権規約の解釈方法について―ー条約法条約31条および32条上の解釈規則の具体的な適用方法と、自由権規約委員会の一般的意見の法的意義を中心に」東京地方裁判所民事第26部、令和4年(ワ)第528号自由権規約に基づく損害賠償請求事件(2023年12月5日提出) 概要:本件訴訟では、難民申請者である原告らに対して、被告である日本国が行った長期的かつ反復的な入管収容が、自由権規約9条1項の「何人も、恣意的に逮捕され又は抑留されない」という権利の侵害を構成するか否かが中心的な論点になっている。このような背景のもと、この意見書は、原告らの依頼に基づき、①そもそも国際法上、条約はどのような解釈方法により解釈されるのか、②自由権規約の解釈において、自由権規約委員会の一般的意見35号はいかなる法的意義を有するのか、そして、③自由権規約の解釈における、国内裁判所の役割・位置づけはいかなるものであるのか、の3点について、国際法・国際人権法の専門家という立場から意見を詳述したものである。 ※本件訴訟の詳細や、髙田の意見書を含む訴訟関連資料はすべて、CALL4というウェブサイトの「『日本の入管収容は国際人権法違反』訴訟」のページ(https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000096)から閲覧することができます。
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【新刊:大久保邦彦教授】島村健, 大久保邦彦, 原島良成, 筑紫圭一, 清水晶紀 編『環境法の開拓線』

OSIPPライブラリーでは、教員の研究業績を収集した「スタッフコーナー」を設置しています。このたび、スタッフコーナーへ受入した大久保先生の新刊をご紹介いたします。 大久保邦彦先生(松本充郎先生追悼論文集)島村健, 大久保邦彦, 原島良成, 筑紫圭一, 清水晶紀 編『環境法の開拓線』(第一法規、2023年) ⇒ 大阪大学所蔵検索 書誌詳細画面はこちら (OSIPPライブラリー)
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2023年度口頭報告審査会および博士論文進捗状況報告会

2023年12月7~9日、博士前期課程(修士)・博士後期課程(博士)論文の「2023年度口頭報告審査会および博士論文進捗状況報告会」がオンライン形式で開催された。(写真:河畑波恵さんの発表の様子) 口頭報告審査会では、修士号申請者35人と博士号申請者4人が自身の学位論文の内容を発表し、博士論文進捗状況報告会では、13人の学生がそれぞれの博士論文について、これまでに仕上がっている部分の内容と今後の研究計画を報告した。 博士前期課程2年次である久保知生さんは「女性候補者の勝利がその次の選挙での候補者の性別に影響があるのか」という、日本の政治において多様性を確保するうえで非常に重要な問いに挑んでいる。分析の上では「最後の1議席にぎりぎりで女性が当選した場合と男性が当選した場合において、次回の選挙での候補者を比べる」という着眼点で、特定の関数形を仮定しないノンパラメトリック回帰不連続デザインと呼ばれる統計手法を用いて「女性候補が勝利した選挙区では、次回の選挙で非現職の女性候補者が擁立されやすい」という統計的因果効果に迫った。久保さんは、発表終了後に13人という大勢のギャラリーが見守る中、主査や副査からの内容や統計手法に対する質問に一つ一つ丁寧に回答していた。 博士前期課程2年次の河畑波恵さんは、米国でアジア系女性として育ち、性別や民族的所属による偏見を持たれたという自身の経験から、“マイノリティ”にあたる、非白人で女性であるカマラ・ハリス氏が副大統領に選出された際の選挙を、社会の鏡となるメディアはどう報道しているのかに関心を持った。そこでCBSとCNNの膨大な選挙報道のデータを収集し、丁寧に比較分析をした。その結果、2020年アメリカ大統領選挙において、性別および民族的所属に関する報道はハリス候補の報道の5分の1を占めたのに対し、“マジョリティ”に当たるジョー・バイデン候補(2008年)やアル・ゴア候補(1992年)に関する報道ではゼロだったことを示した。また、いずれの候補者についても、候補者の政治思想や政策に関する報道は15%以下にとどまっていたことから、河畑さんは修士論文を通して選挙報道のあり方を問い直している。報告会を終え、河畑さんは「先生方に良いアドバイスを頂けたので、それを元に修正していきたいと思います!」と清々しい笑顔で語った。 博士後期課程2年次のElizaveta Kugaevskaiaさんは “Time Zones and Voting Behavior: Evidence from Russia” というタイトルで現在進めている研究の進捗を報告した。タイムゾーンの境界線を挟んだ地域では、日の出と日の入りは同じタイミングであるにも拘らず、線の東西もしくは南北の地域でその時刻は異なる。Elizavetaさんはこのことが起床時間、睡眠の質、気分などに影響して投票率や右派・左派など党派ごとの得票率にまでも影響があるのではないかと考えた。そこで、世界で最も多くのタイムゾーンを持つ国であるロシアを舞台に、地理的データを使った空間回帰不連続デザインという近年経済学で利用され始めたばかりの方法を用いて取り組んでいる。Elizavetaさんの発表後、主査と副査からは結果の解釈やそのメカニズム・先行文献に至るまであらゆる角度からのコメントが寄せられ、予定時間を20分超過するほど白熱した議論が行われた。そして最後に、今後の博士論文執筆や研究会での発表に向けて行うべき分析の方針を確認した。 今年3月に修了予定の学生は、今回の審査委員からのアドバイスを踏まえて加筆修正した学位論文を1月上旬に提出する。その後、学位論文の審査と教授会の決定を経て学位が授与されることになる。 (OSIPP博士前期課程 辻本篤輝)
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2023年12月の研究業績

OSIPP基幹講座教員の12月の研究業績をご紹介します。 ・山下拓朗 先生・小原美紀 先生・二羽秀和 先生 山下拓朗(受賞)第20回(令和5(2023)年度)日本学術振興会賞を受賞https://www.jsps.go.jp/j-jsps-prize/kettei.html 小原美紀(著書)「日本における女性の「家計内交渉力」の変遷」阪本諒との共著『日本女性のライフコース 平成・令和期の「変化」と「不変」』慶應義塾大学出版会(2023年10月)https://www.keio-up.co.jp/np/detail_contents.do?goods_id=6574 概要:日本において、家計内の女性の地位はどのように変化しているのか。本稿では、経済学分野で家計行動を分析するときに重要となる「家計内交渉力」について、統計データに基づいた実態把握を行う。まず、先行研究に倣って妻の家計内交渉力を定義する。つぎに、『消費生活に関するパネル調査』を用いて、夫と比較した妻の相対的地位を計測する。具体的には、夫と比較して妻の収入が高い家計や、教育年数が長い家計を妻の交渉力が高い家計として、そのような家計割合を示す。ほかにも、家計全体で何を買うかや、妻が働くかどうかを決断するときに誰の意見が反映されたか、あるいは、誰が収入を管理しているかといった情報から、家計内交渉力の指標を作成する。分析の結果、日本における妻の家計内交渉力は高くないが、2000年以降、高まってきたことがわかる。また、妻の交渉力が高くなると、妻自身の支出は増えるものの、彼女の余暇時間は減ることがわかる。これらの結果を説明するものとして、妻の交渉力が高い家計は妻の労働時間が長い場合が多いが、妻の労働時間が長くなっても、彼女の家事労働時間は減らず、それによって余暇時間(一日のうち労働時間と家事時間を除いた時間)が短くなってしまうことが考えられる。日本の既婚女性に課されるこのような家事制約の存在により、たとえ既婚女性の家計内交渉力が高くなっても、彼女らの健康状態や満足度が高まらない可能性が指摘される。 小原美紀(著書)「日本の家計は本当に貯蓄しなくなったのか」チャールズ・ユウジ・ホリオカとの共著『日本女性のライフコース 平成・令和期の「変化」と「不変」』慶應義塾大学出版会(2023年10月)https://www.keio-up.co.jp/np/detail_contents.do?goods_id=6574 概要:本論文では、『消費生活に関するパネル調査』を用いて、2000年以降の日本の既婚世帯の家計貯蓄率の実態と動向を整理する。貯蓄意欲を捉えるために、月間の世帯収入に対する月間の貯蓄の比率に着目した分析の結果、日本の既婚世帯の月間家計貯蓄率は一貫して低下しているのではなく、2000年以降で見れば家計貯蓄率は下げ止まっていることがわかる。また、同一個人のライフサイクルでの貯蓄率を見ると、40歳代後半にかけて家計貯蓄率は下がっていき、それ以降は少なくとも50代にかけて増加に転じる。さらに、1960年代生まれの世代と比べて、それより遅く生まれた世代で貯蓄率は低い傾向にある。そして、これらの家計貯蓄率は、所得階層が低い家計、妻の教育年数が短い家計、子供のいる家計、家計管理をしていない家計で低いことがわかるが、これら家計の特徴の差だけでは家計貯蓄率を説明することはできず、経済状況や社会環境も大きな影響を与える。たとえば、所得が増えた時にどれぐらい貯蓄率を増やすかという「貯蓄性向」は、税制の変化の影響を受ける。 Miki Kohara coauthored with Taisei Noda(論文)“The causal effects of working time on mental health: The effectiveness of the law reform raising the overtime wage penalty”, Pacific Economic Review 2023; pp.1–27.(査読有)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1468-0106.12441 Abstract:The present paper reexamines the causal effect of working hours on workers’ mental health. We utilize Japan’s 2010 reform of the Labor Standards Act as a social experiment to examine how the increased wage penalty for long overtime work affects working hours and workers’ mental health. Utilizing a unique panel dataset containing health behaviours as well as individual, house-hold and workplace characteristics of male workers, we find that the wage penalty reform indeed succeeded in reducing overtime hours and total working hours and that the reductions contributed to better mental health of workers. Further empirical investigation suggests that the reduction effect of the reform on working time is homo-geneous among age groups; however, the harmful effect of working time on mental health is large and statistically significant among young workers. Our results suggest that setting a high wage penalty for long overtime work effectively reduces overtime work and improves workers’ health outcomes, particularly for young people. Hidekazu Niwa(論文)“Exiting from Quantitative Easing in an Era of Large Government Debt: Inflation or Default?,” (2023) Economics Letters,111471. (査読有)https://doi.org/10.1016/j.econlet.2023.111471 Abstract:Japanese government bonds have accumulated during the last decades, while the Bank of Japan has purchased government bonds under the Quantitative and Qualitative Monetary Easing. This note reconsiders a relationship between inflation stability and a government bond default by using a simple model in which the fiscal authority: (ⅰ) commits not to making fiscal adjustments needed to stabilize government debt, (ⅱ) commits not to providing financial support for the central bank that incurs losses on its balance sheet, and (ⅲ) can partially default on government bonds. We show that the central bank that engages in large-scale purchases of long-term government bonds when the zero lower bound (ZLB) binds cannot achieve its inflation target after the ZLB is no longer binding.
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【新刊:小原美紀教授】樋口美雄, 田中慶子, 中山真緒 編『日本女性のライフコース : 平成・令和期の「変化」と「不変」』

OSIPPライブラリーでは、教員の研究業績を収集した「スタッフコーナー」を設置しています。このたび、スタッフコーナーへ受入した小原先生の新刊をご紹介いたします。 小原美紀先生樋口美雄, 田中慶子, 中山真緒 編『日本女性のライフコース : 平成・令和期の「変化」と「不変」』(慶應義塾大学出版会、2023年) ⇒ 大阪大学所蔵検索 書誌詳細画面はこちら (OSIPPライブラリー)
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2023年11月の研究業績

OSIPP基幹講座教員の11月の研究業績をご紹介します。 ・大久保邦彦 先生・二杉健斗 先生 大久保邦彦(著書)「共同不法行為論の開拓線」島村健・大久保邦彦・原島良成・筑紫圭一・清水晶紀 編『環境法の開拓線』第一法規株式会社(2023年11月)https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104778.html 概要:共同不法行為論は、公害・じん肺・アスベスト等に関する紛争に対処するために実務上、展開を重ねてきたが、理論的には混迷状態にある。本稿は、「ドグマーティッシュな基礎づけ」を重視するオーストリア法を参照して、共同不法行為論・因果関係論の基礎にある法原理を探求することを通して、日本法に対する示唆を得ることを目的とする。「不法行為の一般原則」によると、人は、自己の行為と因果関係が証明された結果についてのみ責任を負うと言われるが、制定法の評価によると、因果関係が不確実・不十分な場合にも責任が肯定されうる。この場合、オーストリアでは、動的体系論という方法論に依拠して、因果関係の薄弱さを重い責任非難(故意)や高度の相当性・具体的危険性によって補完することが説かれている。かかる構想は、法原理的基礎づけに関する議論が低調な日本の学説にとって、参照価値が高いと思われる。 二杉健斗(その他の記事)「学界回顧―国際法」越智萌・岡田陽平との共著『法律時報』95巻13号(2023年)197-206頁https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/9163.html 概要:『法律時報』の「学界回顧」は、法学分野の1年間の研究動向をレビューする記事であり、著者らの担当は2年目である。昨年度に引き続き、国際法(学)の有用性に対する疑問への応答が求められているとの問題意識から「実学としての国際法学」の動向を記述するべく、当該研究によりいかなる規範的・実践的問題が解決されたのかに特に注目して、日本の国際法学の研究を体系的にマッピングすることを試みている。特に露宇戦争に関しては、項目を別立てしてまとめている。
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2023年度秋季OSIPP説明会

2023年11月10日、OSIPP棟2階講義シアターにて秋季OSIPP説明会が行われた。当日は対面とオンラインを合わせて約60人が参加し、入学試験及び在学中のカリキュラム、修了後の進路等についての説明、および質疑応答が行われた。(写真:OSIPP修了生の進路を説明する小原美紀教務委員長) 説明会は、中嶋啓雄研究科長の挨拶から始まった。中嶋研究科長は、OSIPPでは社会の諸問題について学際的にアプローチし、最終的に政策という形につながるよう研究・教育が行われていること、インターンシップ教育などで社会とのコミュニケーションを重要視していること、さらに専任の教員が多いために充実した研究・教育が実施できることを挙げ、OSIPPには国際的な視野を持って公共政策課題の解決に取り組むリーダーを養成するための知見や能力を身につける環境が整っているという紹介があった。 その後、小原美紀教務委員長より、例えば学部レベルの数学のような基礎から入学後に学べるカリキュラムの特徴、入試に関する情報、早期修了制度を含めた修了要件、学生支援等についての詳細な説明があった。 入試情報に関しては、OSIPPの出願において英語民間試験のスコアは過去5年以内のものが有効なので、早めに高いスコア取得に向けて動いてほしいという激励があった。また、学生支援については様々な奨学金情報を在学生向けのインターネット掲示板等で得られることに加え、海外の奨学金採用の支援にも推薦状執筆などを通してOSIPPの教員が支援を惜しまないこと、2024年から大阪大学で始まる特待留学生授業料免除についても言及があった。 続いて、経済系と法政(法学・政治学)系の教員からそれぞれの分野に関する説明があった。経済系からはOSIPP教授である小原美紀先生が、初めて経済学を学ぶ学生でも専門性を身につけられるように設計されているOSIPP経済系のカリキュラムの魅力を伝えた。法政系は河村倫哉准教授が、法学・政治学分野でそれぞれどのような授業が開講されているかを説明したうえでOSIPPでは特に国際法・国際政治学・国際関係論の教員が多く在籍していること、UNESCOなどの国際機関で実務経験を積んだ教員による授業が豊富であることを説明した。 次に、OSIPP教員からの日本語と英語でのメッセージ動画が放映され、教員が具体的にどのような研究を行っているか、どのような学生とともに研究を行いたいかについて熱い思いが伝えられた。 その後は在学生が3人登壇し、自らが感じるOSIPPの魅力を語った。国際性・学際性を兼ね備えたOSIPPであるからこそ得られる視点や学びがあることを紹介したうえ、教員と学生の距離が近いこともOSIPPの魅力である、と語っていた。 教員からの一連の説明が終了したあとは、法学系の教員である大久保邦彦教授も加わって質疑応答の時間が設けられた。得られる学位や卒業後の国際機関への就職についてなど、様々な質問が会場やオンラインのチャット機能を通じて寄せられた。また、対面会場では説明会終了後も在学生や教員に個別の質問をしている様子も見られた。 教員からの丁寧な説明や在学生も対応した質疑応答によって、参加者一人ひとりがOSIPPでの充実した学びと未来への一歩を体感できたのではないだろうか。 (OSIPP博士前期課程 辻本篤輝)
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2023年10月の研究業績

OSIPP基幹講座教員の10月の研究業績をご紹介します。 ・赤井伸郎 先生・二杉健斗 先生 赤井伸郎(その他の記事)「地域社会の「スポンジ化」防げ」『十字路』日本経済新聞(2023年10月26日付夕刊)http://akainobuo.starfree.jp/jyu-ji-ro.html 概要:全国で日本人の人口が減少している。スポンジ化しているため、実感がわきにくいが、ひとつの県が毎年なくなるほどのペースである。地域の社会課題に対応していくためには、地域コミュニティーの維持が欠かせない。地域を圧縮して人口密度、交流密度を挙げていくことが望ましい。 Kento NISUGI(Discussion Paper)“Piercing the ‘National’ Veil of State-Backed Investors in ICSID Arbitration: Beyond Broches Test and ARSIWA” DP-2023-E-003(24 October, 2023)https://www.osipp.osaka-u.ac.jp/archives/DP/2023/DP2023E003.pdf Abstract:Amidst the rising influence of State-owned enterprises and sovereign wealth funds, the eligibility of State-backed investors to claim standing as a claimant before an ICSID tribunal emerges as a significant point of contention. The established ‘Broches test’ suggests that State-ownership per se does not disqualify an entity from being a ‘national’ under Article 25 of the ICSID Convention. However, the ambiguities inherent in its content and legal authority have yielded varied interpretations. A newer perspective suggests relying on attribution standards reflected in the Articles on Responsibility of States for Internationally Wrongful Act (ARSIWA) for guidance. This article examines critically these prevalent approaches and obstacles to the transplantation of ARSIWA’s attribution rules to this specific context. Instead, it proposes a method for piercing the ‘national’ veil of State-backed investors in accordance with the general principle of law of abuse of legal personality and process. This proposed framework strikes a proper balance between safeguarding the integrity of the ICSID system and ensuring State-backed investors’ access to ICSID. Moreover, this article paves the way for future tribunals by drawing inspiration from the parallel practice of the European Court of Human Rights.
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【書評】松林哲也著『何が投票率を高めるのか』

有斐閣、2023年8月発行https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641149472   淺野良成(関西大学法学部助教) 気がつけば、投票率の低下が問題視されてから久しい。選挙の直前に、「まずは自分なりに考えて一票を投じよう」「一人ひとりが主権者としての自覚を持とう」といった啓発メッセージを目にすることも当たり前になっている。しかし、そうしたメッセージにどれほど意味があるのだろうか?投票率が上がらないのは、主権者としての自覚が人々に足りないといった気持ちの問題なのだろうか? 本書は、投票率を向上させるために何が出来るのかについて、具体的なエビデンスに基づいて論じた本である。以下ではまず、本書の特徴を紹介しつつ、評者が思うおすすめの読み方をいくつか提案したい。その上で、本書から私たちが何を学べるのか、もとい評者が何を学んだのかを述べていく。 本書をどのように読むか? 本書は、投票率が低下した現状や本全体の概要を説明した第1章、投票率を左右する要因を検証した第2章から第7章、投票率に関するデータの取り方を解説した第8章、投票率の向上/低下がもたらす政策的帰結を述べた第9章で構成されている。このうち第2章から第7章は、投票率を左右しそうな条件(筆者の表現では環境要因)を膨大なデータを駆使して一つずつ検証している。 第2章から第7章の分析はそれぞれ独立しているため、関心のある箇所から読み進めても問題ない。本書に興味を持つ人の中には、実際に選挙の現場に携わっている実務家も多くおられるだろう。実務に携わる人は、第1章に目を通した上で、ご自身の経験と照らして読み進められそうな章に飛んでみて欲しい。期日前投票所の増設に関わった経験があれば第2章、選挙啓発運動を担当していれば第4章といった具合だ。また、政治参加に関心のある学生は、目次のタイトルから面白そうだと思った章をまずは読んでみよう。 本書の分析結果はいずれも、データに基づいて「〇〇という条件の下では投票率が何%ほど上がる」といった数字で表されている。このように聞くと、数学が苦手な自分について行けるだろうかと不安に思う人もいるかもしれない。しかし筆者は、最先端の高度な統計手法を用いながらも、その高度さを良い意味で読者に感じさせない工夫を随所に凝らしている。 例えば、統計モデルの詳細はコラムで補足し、本文を読み進める上では、数式が分からなくても支障がないように配慮されている。また、グラフに付けられたタイトルが秀逸である。「図5-8 選挙制度改革後に地方と都市の投票格差が縮小した」といったように、そのグラフから何を読み取れるかがタイトルに要約されている。統計学の知識に不安を持つ人や学術書に読み慣れていない人は、グラフを先に見て筆者の主張をイメージしてから、本文に戻っても良いかもしれない。 本書から何を学べるか? それでは、本書の知見から私たちはどのような示唆を得られるだろうか。本書の面白い点として、投票率を向上させる効果が見られなかった分析結果も載せていることを挙げられる。第4章で筆者は、大阪府豊中市で行ったフィールド実験に基づき、投票を呼び掛けるメッセージを工夫しても投票率が変化しなかったことを示している。実施された政策の効果を知りたい実務家にせよ、卒業論文や学位論文を書いている学生にせよ、「有意な効果は見られませんでした」といった報告を避けたがる人が多い。しかし、客観的な根拠に基づいて政策を設計するためには、その政策に効果があったかどうかを把握することが不可欠である。本書に示された筆者の誠実な姿勢をぜひ多くの方に見習っていただきたい。 また、私たちが今後さらに取り組むべき課題のヒントも筆者は数多く提示している。例えば、女性議員の増加が投票率の向上に繋がることを示した第7章は、東京都23区という特殊な地域を分析対象にしており、他の地域でも検証が必要なことを筆者自身が認めている。政治参加に興味はあるが研究の進め方に悩んでいるという人は、本書がやり残した課題にチャレンジしてみると道が開けるかもしれない。 ちなみに評者は、選挙制度改革によって衆院選における地方部と都市部の投票格差が縮小したという第5章の分析を見て、選挙制度改革の効果が波及して参院選や地方議会選でも地方部の投票意欲が下がっていないかが気になった。本書の主張を踏まえて、評者も新しい研究に取り組んでみたいと思う。 本書を読み終えると、「環境を変えてもたった数%しか投票率が変わらないのか」と感じる人もいれば、「環境を少し変えるだけでも投票率は変わるのか」と感じる人もいるだろう。しかし、効果量に対する評価に違いがあっても、エビデンスを踏まえて議論を交わせれば、低投票率の現状をただ嘆くよりはずっと前進している。そうした議論の土台となるエビデンスを実直に積み上げてこられた筆者には、改めて心からの敬意を表したい。
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