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教員紹介:鄒燦 准教授

2026年4月に着任した鄒燦先生にインタビューを行いました。鄒先生は日中戦争史および日中関係の研究を専門としています。

これまでのご経歴を教えてください。

中国の大学院にて修士号を取得後、2011年に渡日。2016年に大阪大学法学研究科で博士号を取得しました。その後、同研究科での特任助教を経て、2017年4月からはOSIPPにて3年半、助教として研究に従事しました。2020年12月からは中国の南開大学日本研究院にて准教授を務め、2026年4月より現職であるOSIPPの准教授に就任しました。

国際シンポの参加

鄒先生が研究者を目指したきっかけを教えてください。

研究者を志すようになったきっかけは、学部3年生の時に参加した国際シンポジウムです。2007年に開催された第一回「現代中国の社会変容と東アジアの新環境」という国際シンポジウムに、当時の指導教員から推薦をいただき、日本・中国・台湾の研究者が集う中、唯一の学部生として発表する機会を得ました。そこで海外の研究者たちと議論を交わした経験が、私の研究者としての原点であり、後の日本への留学のきっかけにもなりました。

発表当時のテーマについて教えてください。

「児童節(こどもの日)と中国の政治社会化の進化過程」というテーマで報告を行いました。戦後に新しく制定された休日である児童節には、各地で子どもたちのためのイベントが行われます。

私の報告では、これらのイベントが単なる催しではなく、若い世代への社会主義思想や革命的価値観などのイデオロギー教育として利用されている点に着目しました。こうしたイベントを通じて、政権の思想を社会に浸透させ、政権の正当性を強固にする−いわば児童節を政治教育の道具として使う仕組みについて分析した内容です。

これまでの研究についても紹介していただけますでしょうか。

大きく分けて二つの柱があります。

一つ目は「政治的シンボルと記憶」に関する研究です。ここで言う「政治的シンボル」とは、例えば祝日や政治ポスターなど、政治的な意味を帯びたモノや行事を指します。これら政治的シンボルから隠された意図を読み解く「表象分析」という手法で研究を行ってきました。政治を単なる権力者たちの駆け引き(外交・軍事)として捉えるのではなく、社会全体がいかにしてその政治的状況を受け入れ、物語化したかというボトムアップの視点から、中国政治史や日中関係史における政治的・歴史的「争い」を紐解く作業です。

先ほどの児童節に関する研究もこの一環です。児童節という祝日を一つのシンボルとして捉え直すことで、政治社会化のプロセスを明らかにしようと試みたものでした。

二つ目は「日中戦争と近現代日中関係」の研究です。日中戦争が如何にして戦後の日中関係に影響してきたか、その歴史的要因とメカニズムを実証的に研究しています。

主に、戦争に関わった各権力の主体の異なる戦争認識や解釈、そして身分・職業・性別・国籍が異なる戦争体験者の多様な戦時体験や記憶に対し、歴史的検証と比較研究を行っています。戦争についての認識や記憶は、国家や社会によって意図的に編集され、政治的シンボルへと昇華されることで維持されます。そのため、日中関係に影響し続ける歴史認識問題は、事実そのものの争いというより、互いの社会が維持してきた「シンボル体系の衝突」なのではないかと思い、こうした衝突の構造を明らかにしようとしています。

オンラインインタビューの様子

この研究の魅力や面白いところを教えてください。

 日中戦争は1945年に終わったわけではありません。その記憶やシンボルは、今なお日中両国の外交、ナショナリズム、そして市民感情を動かす「現在進行形のエネルギー」だからです。過去の事実を掘り起こすだけでなく、なぜ今それが、さまざまな形で政治的に利用されたり、人々の感情を激高させたりするのかという「仕組み」を解き明かす点に、この研究のダイナミズムがあります。

 また、歴史の記憶は固定されたものではなく、時代や政治の要請によって二転三転します。例えば、ある事件が戦後しばらくは忘れ去られていたのに、ある時期を境に突然「国家のシンボル」として浮上してくることがあります。「誰が、なぜ、どのようにしてその記憶を呼び覚まし、シンボルに仕立て上げたのか」というプロセスの舞台裏を、緻密な史料批判から暴き出していくのは、まるで謎解きのような面白さがあります。

指導していた学生との写真

先生の指導スタイルや指導学生の研究テーマをお聞かせください。

 私が指導する学生は基本的に「あの戦争が、日中の人々に何をもたらし、それがどう記憶されて今に至るのか」という問いに関連するテーマを扱っています。

 近現代日中関係や日中戦争の記憶は、時に感情的な議論になりやすいテーマです。だからこそ、安易な二項対立(どちらが正しいか)に逃げず、複雑な現実を複雑なまま受け止め、日中関係の「不都合な真実」にも「小さな個人の声」にも誠実に向き合いながら、論理的に説明することを求めています。

私は異なる視点を持つ学生同士が徹底的に議論できる環境を大切にしています。また、ステレオタイプな言説や考え方を乗り越えるために、一次史料に徹底的にあたるよう指導しています。中国側の史料が語るリアリティと、日本側の残した記録のギャップに直面し、それらを突き合わせることで、客観的な研究者としての視点を確立してほしいと考えています。

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准教授 鄒燦 Zou Can(すう さん)
研究テーマ:日中戦争と近現代日中関係、政治的シンボルと記憶
専門分野:アジア政治史、国際関係史
学位:博士(法学)

<代表的な業績>
1 単著『「盧溝橋事件記念日」をめぐる日本と中国』(大阪大学出版会、2018年)
2 「日本統治下の台湾における日中戦争像‐総督府の戦争記念活動を中心とした考察」(瀧口剛編『近現代東アジアの地域秩序と日本』第8章、大阪大学出版会2020年)

(OSIPP博士前期課程 WANG Hsin Ni)