提言

チマンガ コンゴロ(OSIPP助手、国際知的所有権法)

アフリカの伝統・価値は知的所有権として保護を

 国際的・国内的枠組における知的所有権保護の必要性は、近年世界中で認識されつつあり、ある一つの地域(region)という観点からも、その保護の必要性は高い。これまで、国際レベルでの知的所有権保護に向けて、世界的統一システムの設立が試みられており、この試み自体は称賛されるべきことであるが、世界貿易機関のTRIPs協定が定める現行の知的所有権制度は、真の意味での国際水準を反映したものと言い難いつまり、発展途上国側の主張がほとんど考慮されず、先進国の利益が主に重視されているのである。TRIPs協定の欠点をふまえ、発展途上国、特にアフリカ諸国において、地域ごとに相応しいシステムを考案すべきである。
国際レベルではフォークロアや文化的遺産の保護は行われていないが、アフリカ諸国の日常生活において文化的遺産やフォークロアは非常に重要であり、あらゆる場面とフォークロアは密接な関係をもっている。例えば、フォークロアに関する発明・著作権・隣接著作権・デザイン・農業・生物項目(植物新品種)や伝統的医療・医学などは伝統的な遺産として保護されるべきである。
なお、フォークロアとは文化的遺産の根源的な構成要素であり、国内民族共同体によって創作された文学的・美術的・科学的・技術的作品として、代々受け継がれてきたものであり、国際・広域・国内レベルでの保護が求められている。
現在、アフリカには知的所有権を専門に扱う機関が2つ存在する。アフリカ広域工業所有権機関(ARIPO)とアフリカ知的所有権機関(OAPI)である。これらが定める制度も、アフリカの現状を十分反映したものとは言い難い。国際システムを調整せずに、アフリカの広域レベルにそのまま導入しているのである。言い換えれば、ARIPOとOAPIのシステムは欧米の知的所有権保護制度をモデルとしており、アフリカの現状と環境に適していない。これらの機関は加盟国の知的所有権法を調和させてきたが、アフリカの伝統的な知識やフォークロアについての保護をほとんど行っていない。アフリカ諸国は国内及び地域レベルでのアフリカ独自の保護システムを早急に確立する必要があるだろう。
そこで私は、グローバリゼーションにより生ずる新たな問題に対応できると同時に、アフリカのヴィジョンを反映できる機関としてFIPOA (Folklore and Intellectual Property Organization of Africa)を提案したい。FIPOAの目的は、アフリカ諸国の統一システムの設立と伝統的なアフリカ財産の保護であり、知的所有権に関しては、アフリカのフォークロアや伝統的遺産を国際的レベルで承認させるべく貢献するのである。
また、現代のようなデジタル時代にあっては、オリジナルなものの価値が認められ、保護されなければならないだろう。伝統的な価値・遺産は知的所有権として保護されるべきなのである。


書評

 松田貴典著
『情報システムの脆弱性』

 情報システムの脆弱性とは何か、また、それに関する研究が今まであまりなされてこなかったのは何故か。その解明に始まる本書は、情報システムの弱さについて多面的な分析を行うことによって、問題点を浮き彫りにすることに成功している。
 情報システムの脆弱性とは、著者によれば『企業等が情報システムを構築することで、業務システムや管理システム等から得られる「効用」に反して発生し内在化する「欠陥」』のことである。その脆弱性が脅威と結びついて被害をもたらす。
 またそれに関する研究があまりなされなかったのは、今まで事故や障害による損失があまり問題とならず、内部的に処理され、混乱や信用の失墜をさけるために、それらが公表されずにきたこと、また経営者が情報システムのセキュリティ対策に対して利益を生まない投資と考えがちであったことなど、5項目の理由が挙げられている。
 本書は6章からなっている。序章と結びの章を除く4つの章が、それぞれ技術的側面、経営管理・組織的側面、国際・社会的側面、法・倫理的側面からの脆弱性の解明に割り振られている。そして本書の特色は、それら各章に事例研究をつけ加えて、主張の検証を行っている点にある。たとえば、第3章「情報システムの経営管理・組織的側面の脆弱性」では、事例研究として「情報化投資の評価とキャッシュフローマネジメント」を取り上げ、従来、情報システムの効果が不明瞭であることから生じていた脆弱性を克服するための評価法を紹介する。また、第5章「情報システムの法・倫理的側面の脆弱性」では、事例研究として、「情報システム開発・運用での法的システム監査」を取り上げ、自分を守ること及び他者を侵害しないことに関して、システム監査を行う手法を述べるなど、著者の幅広い知見を披露している。
 ところで、情報システムばかりでなく、情報そのものも「弱さ」を持つ。たとえば情報は簡単に壊れることがある。ある期間を過ぎると陳腐化するものがある。一人で歩き回ると害を与えることもある。これらはコンピュータが出現する前から存在した情報の脆弱性である。その脆弱性は、情報システムの脆弱性によって加重されこそすれ、相殺されることはない。その意味では、上に見た第3章や第5章に加えて、第4章「情報システムの国際・社会的側面の脆弱性」も、情報システム化によって拡大された「情報の脆弱性」を論じたものと言えよう。本書は本当は「情報と情報システムの脆弱性」と解した方がよいかも知れない。もっとも、書名としてはくどすぎるからそうしなかったのであろう。


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