提言

橋本 介三

(産業政策論、地域・都市開発論、教授)

ヒューマンアーバニズムで神戸再興

◆「都市再生」を重視した経済復興
 震災後3年目にして供給過剰の状態が現れ、需要不足が経済復興の隘路になってきた。経済復興を軌道に乗せるには、新規開発と同時に、インナー都市の再生を重視して復興を図る戦略が不可避。復興の現状に対する診断、日本におけるインナーシティー問題の重要性、海運・港湾機能の国際競争力の低下、製造業の空洞化と開業率の低下を考慮に入れれば、神戸市は、広域都心核である三宮・元町の再生を主軸に経済復興を展開すべきである。
◆都心の遊休地の活用と交通・通信インフラの整備
「都市再生」のためには、まず、土地造成よりも、産業の構造調整などの問題から派生してくる遊休地の活用に重点を移す。都心部では商業施設、オフィスビルが供給過剰なので、これと相乗効果を発揮する利用法に留意する。港湾機能は物流関連施設を強化する一方で、遊休化した施設はアーバンリゾートのインフラ整備に役立てる。陸・海・空を一体としたポート機能を備えるために、神戸空港の建設は必要。高度通信網の整備は、情報・資金流通のインフラとしてこれから不可欠であろう。
◆「ヒューマン・アーバニズム」の都市形成と魅力の回復
 都市の魅力・イメージの回復は需要を吸引し、都市の経済復興の累積的な好循環を引き起こす。歴史的建造物や街並みは震災で破壊され、「防災都市」を誓って再建された建築物は神戸の雰囲気を台無しにしかねない勢い。しかし、都市のイメージや個性は市民の全人格的な営みの反映でもあるため、市民の「気風」や「まちづくり」に関する基本的な合意が大切。神戸の多様な要素を生かし、イメージの修復を図るには、「超現代都市」よりも「ヒューマンスケール」の都市像が、「機能純化」よりも「多様なサブカルチャーが共存できるモザイク模様」の都市形成が、「クリアランス」方式より「漸進的な」都市の再生が相応しい。これをヒューマン・アーバニズムと呼ぶ。
◆「ヒューマン都市・神戸」にふさわしい産業
 ヒューマン都市・神戸では、人々の多様な要素が視覚化され、創造力が刺激しあい、多数の企業家やクリエーターが集まり、事業を興しやすい環境が備えられる。多様で専門的な中小企業が集積し、日常的に革新を内発でき、産業の変化とともに柔軟に都市を再生し、構造を変えることができる都市像が目指される。神戸が目指す@ファッション、A広義アミューズメント、B多様なビジネスサービス、Cコンピュータソフト・映像・エンターテイメントの制作などの産業は、こんな都市構造と強い親和性がある。
◆ファッション産業の復興と都市の創造力の強化
 ファッション産業の復興を図るには、「インナーシティー」の被害の軽かった部分などを活用して入居条件を容易にし、「プロモーター機能の回復」を支援する一方で、ファッションの「晴れ舞台」を都市空間の再生によって創り出すことが重要。さらに都市の創造力の温床を強化するために、「自立的な小地域の育成とモザイク模様のサブカルチャーの形成」、「住環境とビジネスを両立させるコンドミニアムの形成」、「魅力ある歩行路、裏通りの修復」、「人材の過剰な育成」を提案する。
◆都市に「開放広場」の形成を
 ヒューマン都市の観点からみて、日本の都市に欠けているのが「開放広場」である。これが都市型産業の最後の砦、「コミュニティネット」の形成に役立つので、三宮・元町周辺に@マンション住区と「青空市場」、A若者と「開放広場」、B中年と「おしゃれ通り」、Cお年寄りと「路上のテラス」、D子供と「ポケットパーク」=「裏通り歩行ネット」E港と「メモリアルパーク」を形成する。
 最後に、「都市の再生計画」の実現には、公と民の建設的な協力関係を発展させ、革新的な事業環境を構築し、都市計画と産業政策を融合することが重要である。


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