朝日記者の講義始まる

朝日新聞の現役記者による授業が後期から始まり、初回の10月6日は文・法・経済学部研究講義棟で、元論説主幹、現大阪本社代表の中馬清福(ちゅうま・きよふく)氏が講義を行った。

「マスコミと国際公共政策」と題されたこの授業は、学外との積極的な知的交流、現場感覚の重視というOSIPPの掲げる理念に沿うもので、黒澤研究科長の調整で今年から初めて導入された。政治、経済、外交、福祉、環境などのテーマで、ベテラン記者7人がそれぞれ2回ずつ、オムニバス形式で授業を行っていく。

約30人の院生が受講し、中馬氏は専門の安全保障について講義。日本語の「戦争」「いくさ」「役」「乱」「変」などの相違、クラウゼヴィッツの『戦争論』などを解説した上で、「非常にいびつな形で形成された」日本の戦後安全保障の特殊性を指摘。緊張を強いられる日本列島の地政学的位置と、日米同盟に由来する非合理的な政策決定過程などを詳しく説明した(=写真)。
講師陣は転勤などにより一部変更があり、高成田亨氏、大和修氏の代わりに島田数之氏(前アジア総局長、現論説委員)、木代泰之氏(大阪本社経済部長)が講義を行う。


偶感

〜海外から〜

意外な話を聞いた。音楽の都、ウィーンでモーツァルトの名前を留めているのは、小ぶりの銅像と一本の小道、そして小さな広場一つだけだが、19世紀末から20世紀にかけて、ウィーン市長を務めたカール・リューガーの方は、巨大な記念像(=写真)と大きな広場の名前になっている。ドイツにこんな記念像があったら、大騒ぎになるだろう…云々

■リューガーは「反ユダヤ主義の父」として知られ、アドルフ・ヒトラーをして「私は彼を、すべての時代を通じて最も偉大なドイツ人市長と考える」と言わしめた人物。近代シオニズム運動を創始したテオドル・ヘルツルは、リューガーがウィーンの選挙で勝ったとの報に触れ、欧州からユダヤ人を脱出させる計画作りに着手した、とさえ言われている■実際、こんな話を聞くと、環状通り(リンク)沿いにある政治・文化の中核地区(国会議事堂、市庁舎、ウィーン大学等が並ぶ)が、「カール・リューガー博士リンク」と呼ばれていることに違和感を覚える外国人も多いだろう

■ヒトラーを生んだオーストリアでは、当然、第二次世界大戦についての多角的な考察はなされているが、一般的な認識は「あくまでもオーストリアは被害者」であり、本質的な議論は避けようとする傾向が強い。こうした曖昧な歴史認識のせいで、ナチ疑惑の渦中にあった元国連事務総長、ヴァルトハイムを直接選挙で大統領(国家元首)に選出し、国際社会の批判にさらされたこともあった

■最近も市内で発見されたシナゴーグ(ユダヤ教寺院)の遺構をめぐって、保存反対派が出現したり、ホロコーストの記念碑建立計画がサボタージュによって遅れるなど、民族問題に絡むトラブルは枚挙に暇がない

■そのオーストリアが去る7月、EU議長国に就任した。95年にEU入りして以来、初めての大役とあって国中がお祭り騒ぎになっている。そんな中、今度は大手銀行の「クレディトアンシュタルト」が戦争中、ユダヤ資産のゲルマン化に手を染め、巨富を得ていたという疑惑が浮上した。コソヴォやアルバニアの民族問題を、EU議長国として調整するオーストリアが、自国内で浮上する他民族抑圧の歴史にどういう決着をつけていくか、興味深いところである。

在オーストリア日本大使館専門調査員、博士後期課程在籍、橋本敬市

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