堀氏が初の論文博士

大阪大学学位記授与式が7月2日、阪大吹田キャンパス・コンベンションセンターで行われ、OSIPPでは堀要氏に博士(国際公共政策)の学位が授与された。堀氏はOSIPPの課程を経ないで論文を提出し、所定の審査・試験に合格、OSIPPでは初の論文博士となった。
論文題目は「日本政治の実証分析」で、利益誘導型といわれる日本の政治について計量経済学のモデルを使って検証した。「通常の政治学者は仮説を言うだけの場合が多いが、堀氏はそれをデータを使って実証した。こういった種の研究は日本では手薄であり、また政治学と経済学という学際的なアプローチは、OSIPPの理念にも即している」(林敏彦教授・審査委員会主査)と高く評価された。
堀氏は早稲田大学政治経済学部を卒後、阪大大学院経済学研究科修士課程に進学、同博士後期課程の途中から神戸商科大学に助手として移り、現在は東海大学教養部助教授。


紀要第2巻が発行

OSIPPが編集、発行する紀要『国際公共政策研究(International Public Policy Studies)』の第2巻第1号がこのほど、発行された。B5版、横組で、272ページ。OSIPPの紀要は昨年創刊されたが、今年から年2回発行していく。
今回の紀要には、津守滋・前教授(現・クゥエート大使)、黒澤満教授(研究科長)、床谷文雄教授、コリン・マッケンジー助教授、加納正二助手、チマンガ・コンゴロ助手らの論文のほか、博士後期課程修了者、同課程在籍学生らの意欲作も含め、計17本が所収されている。

執筆者と題目は以下のとおり(敬称略)。
▼「協力的安全保障と集団安全保障−政策目的の視点から−」津守滋▼「北東アジアにおける核兵器と原子力−将来の展望とジレンマ−」黒澤満▼「Adoption and Child Welfare in Japanese Law: Has the Special Adoption Law Failed?」TOKOTANI Fumio▼「Economic and Public Sector Restructuring in Japan」Colin Ross MCKENZIE▼「中国におけるトレード・シークレット保護の現状と展望」孫令華▼「審査と貸出金利」加納正二▼「Trademark Protection under Congo's Industrial Property Act and TRIPs Agreement」Tshimanga KONGOLO▼「電子販売ネットワークの普及特性と実証」岡田広司▼「人道的介入の視点から見た旧ユーゴスラビア紛争:ボスニアUNPROFORに関する『正当性』『実効性』の観点からの検証」饗場和彦▼「特定公益増進法人制度の運用と効果について―特定公益増進法人調査を踏まえて」初谷勇▼「フランス会社法における業務執行鑑定人制度−会社経営者の専横に対する法規制−」清弘正子▼「政治的アクターの合理性について」李利範▼「電気通信産業における競争政策の新潮流」岡田康志▼「気候変動問題における森林の扱い〜日本の吸収量の試算」坂田裕輔▼「OSCEにおける信頼安全醸成措置―メカニズムの発展と評価―」佐渡紀子▼「民間非営利セクターにおける財団の役割」清水裕子▼「厚生分析用CGEモデルのパラミター推計」吉田有里


OSIPP現状評価まとまる

OSIPPのCOE(Center of Excellence =中核研究機関)化を進めるための、戦略プロジェクト報告書がこのほどまとめられ、7月8日共通教育管理講義棟で報告会が行われた。三和総合研究所が受託、調査したもので、昨年に続く2回目の報告書。昨年は米の実務型大学院の実態を分析したが、今回はそれらの評価規準を探った上で、OSIPPの現状に対する評価を調査した。
報告書ではまず、米の主な評価機関とそのレポート〔@US News & World Report、AGourman Report、BNASPAA(=National Association of Schools of Public Affairs and Administration)accreditation〕を分析。@は外部の主観的な「評判」による評価を載せており、有名校が上位に並んだが、ABは教官やカリキュラム、施設などスクールで供給する「教育」=インプットという客観的規準で評価。

アウトプットがより重要

こうした点も踏まえ、報告書はOSIPPへの示唆・提案として、1)まず国際公共政策という新しい分野自体のプレゼンスを高める事が大事、2)教育内容・環境などインプットの基礎的基準を満たす必要、3)その上で、スクールの評判を高めCOEとして確立するには、インプットによる基盤の底上げだけでなく、政策や実務現場への多様な関与というアウトプット(教官自身の関与、論文・リサーチの政策への影響力、卒業生の進出など)が不可欠−−と指摘している。

アカデミズムは高い評価

また、OSIPPの内部意識調査と卒業生インタビューでは、OSIPPの現状評価の実態が浮き彫りにされた。まず教官に関しては、教官自身の自己評価より学生・卒業生からの評価の方が高く、アカデミックな分野では質の高い研究が指摘されるが、米国の実務型大学院と比べると、実務的な研究、パブリックサービス(審議委員やアドバイザーとしての活動など)は消極的とされる。
学生については、その「多様性」が各方面から評価されているが、反面、門戸が広い分、学生の研究面での質にはばらつきがあると指摘される。しかしこのレベルの点に対しては、「教官が法学系、経済学系それぞれの分野の深い知識を求め、それぞれの純粋理論の論文が高く評価される一方、法学・経済学の融合した研究はどちらの分野の教官からも評価されにくい傾向があるから」という声もあり、報告書はこの点を「国際公共政策という新たな研究分野が確立されていないことの裏返し」と指摘している。学生の進路についても、OSIPPの博士前期課程の学生は博士後期課程への進学希望者が多く、博士後期課程があまり存在しない米の実務型大学院とはかなり対照的。
カリキュラムの点では、「研究経験を通して得た深い思考力などが職場でも役立つ」という意見の反面、「プラクティカルな授業はさほどなく、仕事の現場からは遠い」という見方もあり、評価は2分。「国際公共政策としてのスタイルが未確立だと、法学研究科や経済学研究科よりレベルの低いだけの研究科にとどまってしまう」という危惧の声もあった。

大きなプロジェクトも検討を


外部的ネットワークの面では、中堅の社会人学生が多く、そのつながりを活用できるが、全体に学外への働きかけが弱いと指摘。「政策提言のほか、教官が集結した大プロジェクト(アジアの経済危機や環境問題など)を行っては」という提案もあった。また、図書館などの設備も米と比べ見劣りし、イメージ・知名度の点でも、阪大というネームバリューの方が優先している。こうした指摘を元にOSIPPでは今後、タスクフォースを中心に具体的な戦略を策定する方針。


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