院生群像

市職員から大学助教授に転身、OSIPPでも学び続ける

中川 幾郎 さん (D2)

行政論に生かす詩人の感性

28年近く勤めた豊中市役所を辞め、1997年4月から帝塚山大学法政策学部で行政学、地方自治論などを教えている。「経験だけで教えていくのはおこがましいし、OSIPPではまだまだ学ぶことが多いから」と、博士後期課程に在籍する学生でもある。
同志社大学経済学部を卒後、市役所に入り、長く保健・福祉関係に従事。その後、企画、政策部門で、市の将来設計や文化行政などを担当したが、「そこでいかに都市行政について知らないかが分かり愕然」、以後、必死になって本を読み勉強を始めた。そんな中、仕事の関係で、本間正明・前OSIPP教授(現阪大副学長)と出会い、その「時代感覚に富む識見と包容力のある人柄」に心酔、これがきっかけでOSIPPに入学することになった。
修士論文のテーマは「自治体文化行政と芸術文化」。理念としての文化行政だけでなく、現場でも即使える公共政策論として、財団方式での文化事業展開の有効性について論じた。しかし、修士課程に入学した95年は阪神淡路大震災の年で、豊中市でも死者11人、全壊家屋3030戸の甚大な被害。当時は広報課長だったが、OSIPPの授業に出て役所に戻ると山積みの仕事、自宅も半壊だし、半年ほどは睡眠時間3時間という「筆舌に尽くし難い生活だった」そうだ。
帝塚山大学への誘いがあった際、市長は要職である広報課長の退職を渋ったが、「震災を経験したことで実務行政については一応の充実感を得たし、学問の面白さにも引かれた」ことから転身を決意した。
都市行政については最近は停滞感が目立つと言う。「特に近年は機能性追求の空間ばかりで、美しくない。もっと過去を大事にした『時間』の概念を取り入れるべきでは」と話す。
高校時代から中原中也、伊東静雄らに傾倒した詩人でもある。詩集『朝の地平』(サンリオ)も編んでいる。最近は「時間」をモチーフに詩作するそうで、そのセンスが都市計画の発想にも生かされている。
大学教員でありつつ学生、堅実な行政マンでありながら漂う芸術家肌の空気。一見相反するものを包摂して無理ない様は、懐の深さと言うべきか。


Next Back