バランスある犯罪政策を

森本益之(刑事政策、教授)

最近数ヵ月の間に、今日の犯罪政策に大きくかかわる出来事が世間の関心を集めた。その代表的なものとして、神戸の小学生殺傷事件を契機とした少年法改正問題や山口組幹部射殺事件とその背後にある組織暴力対策問題等がある。ここではこれらの例から今日の犯罪政策のありかたに触れてみたい。改めていうまでもなく、少年犯罪と組織暴力犯罪は、薬物犯罪や経済犯罪等とともに現代の犯罪現象の中心を占めているからである。
 まず、神戸小学生殺傷事件では、加害者が当時14才の中学生であったことから、16才未満の少年について保護処分のみを定める現行少年法に対し、刑罰適用年齢の引き下げが主張された。また、少年院在院期間の弾力化、本人と推知できる記事・写真掲載禁止規定の見直し、単独裁判官の審理や非公開審理の見直し等が提起されている。少年法については、これら以外に、全件家裁送致主義を改めて警察・検察に猶予処分権を認めること、刑事処分相当の判断権を家裁から検察に移すこと、検察官を審理に立会させて家裁の決定に対する抗告権を与えること等が警察・検察サイドから要求されていたし、弁護側からは、必要的付添人事件制度や国選付添人制度の採用、観護措置決定や刑事処分相当の逆送致決定等に対する不服申立権、証人尋問請求権等の付与、非行事実なしが明示される決定主文及びその一事不再理効の明定等、少年の手続的権利保障の観点からの法改正が求められてきた。したがって、この際、時代に対応する法改正を検討すべきであろう。しかし、その場合、一部マスコミにみられる「少年法による非行少年の甘やかしが少年犯罪の増加や凶悪化をもたらしている」との主張が事実に反することも押さえておく必要がある。少なくとも、犯罪白書等の統計をみるかぎり、最近の少年刑法犯検挙人員(交通関係業務上過失致死傷を除く)は、戦後三回目のピークであった1983年と比べると約26万人から15万人へと減少しているし、少年の殺人検挙人員は戦後約20年間200人台から400人台であったのが、近年は80人前後に減少しているからである。マスコミは、特異な事件をセンセーショナルに扱うことで客観的な事実を歪曲しがちである。
 つぎに、組織暴力に関する対策としては、1991年にいわゆる暴力団対策法が成立し、暴力団員の不当行為を規制するのに一定の効果を挙げているが(山口組内でもこの法規制への対応を巡って路線対立があったとされる)、この7月法務省法制審議会刑事法部会は、新たに「組織的な犯罪に対処するための刑事法整備要綱骨子(案)」をとりまとめた。この案は9月の法制審総会で基本的に了承され、近く立法化が予定されている。その内容には、組織犯罪の刑の加重、犯罪収益等による事業経営支配等の処罰、没収・追徴の拡大、令状による通信傍受、証人等の保護が含まれているが、令状による通信傍受については、通信の秘密やプライバシー権の侵害、令状主義への抵触といった憲法的観点からの批判が強い。部会では傍受の補充性・限定性に配慮し、違法な傍受に対する準起訴手続を創設したが、傍受乱用への歯止めとして十分とはいえないから、法律化されるまでに慎重な検討が望まれる。
 いずれにせよ、犯罪対策は、個人の人権と社会防衛という、二律背反的緊張関係に立つことを避けられない。それゆえ、論議の前提として、規制の対象となる犯罪・非行の実態につき、正確な事実の把握が望まれるし、政策選択に際して、個人の権利と公共利益とのバランスを失しない判断が求められる。そして、このような判断力や人権感覚は、リーガルマインドと呼ばれるものに相当するが、やや我田引水的にいえば、OSIPPにおけるさまざまな講義や演習は、広い視野に立つリーガルマインドの養成に役立つように思われる。


シンクタンク探訪

三菱総合研究所

「学際志向、中立志向、未来志向、政策志向」が基本理念。松村一也関西支社長は「産業の空洞化、少子化、高齢化、地方分権化、グローバル化など今まで日本が経験したことのない環境の中で、政策提言の意義はますます重要になっている」と話し、経済分野に限らない、総合的、学際的なシンクタンクとして、その使命を強調する。
 同研究所(MRI)(本社・東京)は、三菱グループ創立百年を記念し、複数の研究機関を統合、1970 年に設立された。「組織として特定な利害にとらわれず、母体から独立した立場」を維持、クライアント構成についても年間約2500本のプロジェクトの内、約60%が官公庁、地方公共団体からで、三菱系企業からの案件は全体の10%弱だという。
 他社に比べ技術系色が強く、研究者も、自然科学出身者が8割を占める。地球環境、医療・福祉、防災、都市政策、情報システムなどを始め、交通機関の密室性の解消や移動時間の意味化を図るITS(Intelligent Transportation System)市場についても、いち早く専門チームを作り対応している。
 海外事務所は、ワシントン、ロンドンと香港に開設され、海外企業コンサルティングや国際会議の運営代行業務なども行っている。
MRI Newsletter(年3回刊)、Top Management Service (隔週刊)、中国情報(月刊)、と三菱総合研究所所報(年2回刊)なども発行。
フレックス制度、アップル休暇(一般の休暇の他に10日連続休める)、育児休業制度などがある。