OSIPP授業百選


プロジェクト演習ディジタル社会の法と経済

林敏彦教授、真田英彦教授、松浦克己教授

「電子マネー」「電子商取引(EC)」「IT(情報技術)」――。これらの言葉は、いまやほとんど毎日、新聞紙面に登場する。この授業では、企業や大学・研究機関で、こういった分野の開発、普及に携わる第一線の人たちを招き、最前線の話を聞くとともに、活発なディスカッションを行っている(=写真)。テーマの先端性、ゲストスピーカーの専門性、受講者の多様性などにより、「毎回、中身の濃い真剣な演習」(林教授)となる。OSIPP創設時から開設され、今年で6年目。毎年受講希望者が多い。
 99年度の授業では、技術面に関するテーマとして「インターネット時代の情報セキュリティー」(清水明宏・高知工科大助教授)、「ディジタル社会におけるモバイルコンピューティング(電波エコロジー)」(小牧省三・阪大工学部教授)、「電子認証とPKI(Public Key Infrastructure)」(篠原健・野村総研)などが取り上げられ、放送・通信に関しては「ディジタル放送の将来」(中川正雄・慶応大教授)、「放送とインターネットの出会い−ディジタル化によって変貌する放送業界」(下條真司・阪大大計センター教授)、「融合時代の放送−構造変化と制度−」(前川英樹・TBS取締役)、「ディジタル社会の競争政策」(木下龍一・DDI常務取締役)などの問題を議論した。また「電子マネーの法的分析と問題」(高橋郁夫弁護士)、「電子取引におけるオンラインブローカー等のニューミドルマンの活動」(杉田定大・防衛庁)、「電子マネーの現状と将来」(森直彦・NTT情報流通プラットフォーム研究所)など電子マネーやECに関するテーマも扱った。
授業は社会人が参加しやすい土曜日の午後に千里エクステンションで行われ、30人近くが出席。現役の学生以外にもOSIPPのOBや、企業の専門家も受講している。1時間半のプレゼンテーションの後、たっぷり2時間かけて議論する。
東京から毎回出席している福留恵子さん(D1)は、「現場の新しい動きを学びながらも性急な単純化をせずに議論を繰り返すこの授業によって、錯綜したこの領域をどう捉えるかというスタンスが育てられたように思う。それは参加者の貴重な共有財産でもある」と話す。
IT革新がとどまるところをしらない限り、この演習も常に発展し続けることになる。なお講義情報等については、林教授のホームページに随時掲載される。(http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/~hayashi/)


院生群像

ヴァージル・ホーキンス さん(D1)

 あいさつ代わりに「寒くない?」と聞かれるのももっともで、冬でもTシャツのときが多い。身長175cm、胸囲115pの体躯はアメ・フトで鍛錬している。初対面で、半そでからのぞく隆々の二の腕に目が行くか、「ブラピ」似の甘いマスクに引かれるかは、その人の好みによる。
 生まれはシドニーに近いキャンベルタウン。日本に初めて来たのは11歳の時で、姉妹都市の埼玉県越谷市で10日間のホームステイを体験。地元の中学・高校はグラウンドが10以上もある広大な学校で、夏休みは付設の農場で家畜の世話もしたそうだ。しかし食料生産を目的にした飼育のやり方に反感を覚え、以来ベジタリアンで通す。
 初め「国内の大学で日本語の勉強を」と考えていたが、卒業の直前に日本への留学プログラムを紹介する掲示を目にして応募。92年、日本政府国費留学生として2度目の来日をし、1年間、東京外国語大学で日本語を勉強したあと、阪大法学部へ。外大で様々な留学生と接しているうちに、国際政治の勉強をしたいと思うようになった。
 卒後、OSIPPに入学、修士課程では、国連安全保障理事会の改革について研究し、現在は星野俊也助教授のもとで、安保理と平和強制という課題に取り組んでいる。「安保理で取り上げる紛争は偏っている。紛争そのものの大きさからではなく、政治的観点からしか見ていない」と批判。また「マスコミが政治の偏見を作り出しているのも事実」と、新聞やニュースも分析の対象にしている。
 日本に来て8年近く。よく「日本人らしい」と言われるそうだが、本人は好きではない。「思いやりがあるとか、気が付くということで日本人的と言われるのかもしれないが、それは本来人間に共通するもの。特に日本人とかオーストラリア人とかを意識したくない」ときっぱり。早く社会に出たいと思いつつも職種に強いこだわりがある。国際公務員を希望するが、その懐の深い国際感覚と、思慮深い人柄はどこでも通用するはずだ。


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