論文公募で入選続々

読売論壇賞に清井教授、豊田氏
 

「第5回読売論壇新人賞」が11月2日発表され、OSIPP教授の清井美紀恵氏と、OSIPP卒業生、豊田尚吾氏(大阪ガス勤務)の2人の論文がともに佳作に入選した。同賞は今回、327編の応募があり、最優秀賞1編、優秀賞1編、佳作6編が選ばれた。
 清井氏の「国際機関のグッドガヴァナンスを求める」と題した論文は、外務省職員として実際に国際機関に勤務した経験に基づき、日本人が理想化する国際機関の実態をえぐり、その非能率、無駄を指摘、取るべき対策について論考した(要旨は本紙「提言」に掲載)。
 またOSIPP1期生で、同窓会「動心会」の副会長も務める豊田氏は、「地域通貨制度が拓く情報多消費型取引の可能性」の論文で、国民通貨の「円」などの他に特定の地域だけで通用する地域通貨の効用を議論した。経済取引を地域内に囲い込むことで地域経済の自立性が高まる点、地域間の財移動を減らすことで環境負荷が低減する点、一般の市場では値の付かないボランティア活動に値付けをできる点などの利点があり、市場化が進む中、「効率と公正」のバランスを取る方策として有用であると主張。地域通貨による「排出権取引制度」などを提言し、市場取引を補完する新しい情報多消費型取引の可能性を示唆した。

M1の萩原さん、米谷さん、今西さんらも環境問題や国際理解などで
 

 院生も論文コンテストなどに積極的に応募し、このほど3人が入選を果たした。
 M1の萩原牧子さんは「第9回地球にやさしい作文・活動報告コンテスト」(読売新聞社主催、文部省、通産省、環境庁など後援)一般の部で入選。「大量リサイクルでいいのか」と題して、現代社会ではリサイクル以前にまずごみの発生抑制が必要と主張した。
 M1の米谷陽一さんは「日本育英会奨励金付論文 チャレンジ21」(日本育英会主催)で優秀賞を獲得。「構造的な環境改善のための新しい経済システムの提案」というタイトルで、環境問題への新たな取り組み方を提案した。
 また、M1の今西貴夫さんは「第8回米国派遣者選抜学生論文コンクール」(尾崎行雄記念財団主催)で文部大臣奨励賞を受賞した。「国際理解から始まる平和の探求」と題し、市民が平和のために行動を起こすには、国際理解教育などを通して知識と実践的態度を涵養しなければならないと述べた。


逆風の中、就職決める院生ら
外務省、JICA、コンサルなど公共セクターや研究職に

 

 求人状況が依然厳しい中、就職を決めたOSIPP院生らによる就職活動報告会が12月15日、OSIPP棟で開かれた。就職の内定したM2の学生らがM1の学生らにそのノウハウを伝えるもので毎年、院生有志が開いている。この日は大河内さん、木さん、蒋さんらが自己の経験を紹介したほか、中央官庁に勤める先輩も講師として招かれ、公務員試験受験のアドバイスなどを聞いた。
 今年もOSIPP院生の就職先は多彩で、外務省に3人が入る他、JICA、地方自治体、NGO/NPO、公益企業など公共セクターや、コンサル会社など研究職に就く学生が多い。内定者は以下のとおり(敬称略、確認・承諾を得た者のみ)。▼碇井良平・大阪ガス▼今西貴夫・外務省▼大河内淑恵・財団法人 地球・人間環境フォーラム▼笠原久美子・国際協力事業団▼木村純平・アンダーセンコンサルティング▼蒋微筱・大阪商工会議所▼木晶子・富山県庁▼陳紹桟・国際交流基金クアラルンプール支部▼中嶋昌克・NHK情報ネットワーク▼チャナンヤ パンナラッサ・タイ国商務省▼濱口歩・外務省▼藤川雅大・外務省▼渕上晶代・財団法人 国際研修協力機構▼吉田有里・日本学術振興会特別研究員


OSIPP学会、IPP研究会内外から多彩な報告

●ワシュプルンク氏「政治文化」

阪大国際公共政策学会(OSIPP学会)主催の研究会が11月4日、独・コンスタンツ大学教授のハインリッヒ・ウァシュプルンク(Heinrich Ursprung)氏を招いてOSIPP棟で開かれた。同氏は「持続的な政治文化と移行の失敗」という題目で、なぜ旧東側諸国が自由主義社会経済体制への移行に失敗しているのかについて、「政治文化」の点から分析。
「政治文化」は曖昧な概念であることを認めつつ、同氏はrent-seeking(非生産的利益穫得のための活動)をこの政治文化の一つととらえ、経済移行に苦しむロシア、ウクライナなどと、順調なチェコなどとの差に注目。rent-seekingを行う内部者(insider)の拡大に着目し、こうした拡充した内部者が「政治的なクラブ」を形成し、自らが特権階級になっていく移行過程を説明した。

●マカリア氏「東南アジア経済分析」

IPP(International Public Policy)研究会が11月29日、OSIPP棟で開かれ、西オーストラリア大学経済学部教授のマイケル・マカリア氏が、「東南アジア諸国の収斂と追い上げ−比較分析」と題するテーマで報告。ASEANの5か国(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)が、技術分野のリーダーである米国を追い上げる力を持っているのか、フィリピンが遅れをとるのではないか、などの問題設定で、収斂仮説と追い上げ仮説(convergence and catching−up hypotheses)の両面からASEANと日本、台湾、韓国、米国などを対象に、65年から92年にわたる国内総生産などのデータをもとに検証。その結果、所得の収斂は米国とシンガポールとの間で見られ、追い上げ仮説のもとでは、シンガポールを除き他のASEAN4か国と米国との間の追い上げの証拠は見られないことなどが示された。

●池上氏「日米軍事開発」

12月14日のIPP研究会では、ストックホルム大学政治学助教授の池上雅子氏が「軍事研究開発の日米共同化―SDIからTMDまで」と題して報告。同助教授は軍産複合体などに代表される冷戦時代の軍事開発の視点に代わり、「ネットワーキング」概念を提唱。そのなかで日米政府間の防衛国防省庁、防衛関連産業というアクターを包括し、最近の軍事技術開発協力の構図を捉えようとする。
レーガン時代のSDIが新しいネットワーキングを芽生えさせ、日本のエレクトロニクス関連企業も軍事技術開発の網のなかに引き込まれ、続くFSX問題を経てTMDでもこのネットワーキングが存在。TMDについて、最終的には日本は米国から高額のTMDを買うことになろうが、日本の武器輸出禁止三原則の緩和を米国が迫ってくるおそれも指摘した。

●佐野氏「核軍縮政策」

またSIPP客員教授で外務省総合外交政策局軍備管理軍縮課長の佐野利男氏も、12月21日のIPP研究会で報告、「実務家からみた核軍縮政策について」と題して黒澤満教授の近著『核軍縮と国際平和』(有斐閣、本紙「書評」欄でも紹介)を題材に外交の実務家の視点から核軍縮問題を論じた。
同氏は、同書の中心的な議論である、1)北東アジアの非核化地帯構想、2)核兵器の先制不使用・通常抑止、3)日、豪、加で構成するJACグループによる核廃絶に向けたイニシアティブ、について検討。非核化地帯構想については、実現するには域内のメンバーが同じ価値を見出さなければならず、現状では北朝鮮問題などにより実効ある国際合意を創り出す環境にはないと指摘。核兵器の先制不使用は信頼醸成の大きな要素になることに異議はないが、先制不使用はプロパガンダの要素があり、先制不使用を検証する手段もないことから時期尚早とした。また、JACグループはジュネーブでも核保有国と非同盟国とのミドルグラウンドになっていることを紹介、「核保有国が少し無理をすれば、できることを一つ一つ進めていく」という核軍縮に関する日本の立場を説明した。


next        back