書評

山内直人 『ノンプロフィットエコノミー −NPOとフィランソロピーの経済学』 日本評論社 1997年

 昨年「地球温暖化防止京都会議」が開催されたが、こと問題の重要性にもかかわらず、各国のエゴがむき出しになり、合意が難航した。この混乱の中で、すがすがしい印象を与えたのが環境NPO(民間非営利団体)である。シンポジウム、パンフレット作成などを通じて情報を提供し、社会的な関心を喚起し、独自のCO2削減目標を掲げるなど、その活動は連日マスコミで大きく取り上げられた。また、昨年のノーベル平和賞は、地雷禁止運動を行っているNPOに与えられたことも記憶に新しい。このようにNPOは、国益や特定団体の経済的利益に束縛されることなく、独自の価値観に従って広域的・社会的問題を解決する役割を担うものとして、近年とみに関心が高まっている。
 以上のようなNPOを分析対象とするのが、本書『ノンプロフィットエコノミー』である。本書は、NPOに限らずフィランソロピー(ボランティア活動・寄付)などの非営利活動を、経済学からアプローチする体系的な研究書である。その特色は、以下の4点にまとめることができる。
まず第一に、市場経済システムの中になぜNPOが存在するのか、政府や企業の活動と本質的にどこが異なるのか、フィランソロピーはどのような動機により行われるのか、これらの基本的な問題に対して、経済学の枠組みの中で理論的な解答を与えていることである。これまで経済学の研究対象とされてこなかった非営利活動を、正統的な経済学理論を用いて分析している。
第二に、基本的な経済分析手法を用いて、わかりやすく丁寧な解説がなされていることである。NPOは学際的な研究分野であり、経済を必ずしも専門としない人も多い。このような研究者や、学部学生・院生、さらにはNPOの最前線で活動する人々にとり、読みやすいものとなっている。
第三は、NPOやフィランソロピーの実態についての資料やデータが豊富で、活動規模や実態の把握が困難といわれる非営利経済活動の全体像が具体的に示されている。 最後に、従来のNPO研究にありがちな感情的・情緒的議論を排除し、アカデミックな立場からNPOやフィランソロピーのあり方・制度について建設的な政策提言を盛り込んでいる点である。
 以上のように本書は、NPOを理論的かつ実証的に分析し、その分析結果を基礎にNPO制度のあり方を提言するというバランスがとれた構成をとっているが、本書の行間からは、筆者のNPOに対する「warm heartとcool head」という、社会科学を研究する上で最重要である基本姿勢が読みとれる。
今後の社会は国際化・高齢化・情報化の中でますます多元的となっていくが、この中で政府や企業といった既存の主体と異なる行動規範をもつNPOは、我々一人一人が自分の身の回りから地球規模といったあらゆる問題に対して、その解決に主体的に参加するための新しい拠り所となるものである。アメリカと比較して、立ち後れているといわれる日本のNPOやフィランソロピーが、今後質的にも量的にも拡大するためには、新しいNPO制度や寄付税制等の整備が急務となっている。本書が、今後のNPO・フィランソロピー研究のみならず、その実質的な活動の発展に寄与することは間違いない。

辻 正次(理論経済学、教授)

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NGO NOW!

「ACE(Action against Child Exploitation)」 児童労働の問題に関心を

岩附由香(M1)

「国際子ども権利センター」(大阪・茶屋町)の「インド・プロジェクト」では、児童労働に関する勉強会が開かれており、私も参加していますが(次回は2月28日午後15:00より)、昨年、この会の有志らと新たなNGOを結成しました。
「ACE(エース:Action against Child Exploitation)」と言います。主にインターネット上のホームページを通じ、搾取されている子どもたち(主に児童労働)に関する世界中の情報を提供、日本を中心に人々の関心を高めることにより、社会に働きかけていくことを目的としています。
現在、私たちが注目しているのは「Global March Against Child Labour」(児童労働反対グローバルマーチ)という世界規模のキャンペーンです。世界82カ国からNGOなど約350団体が参加して、1月17日出発のマニラを皮切りに、2月25日にはリオから、3月21日にはアフリカの最南端から、それぞれ徒歩とバスなどで行進を続け、6月1日にジュネーブで集結することになってます。
そこで開かれるILO総会において、児童労働に関する新しい条約の草案が作られるのですが、「マーチ」はこの新条約策定に向け、国際世論を高め、多くの人に行動を呼びかけることを目的にしています。ACEもこの「マーチ」を支え、成功させるため情報提供などの活動を行っていきます。皆さんもぜひこの問題を一考してみてください。ACEのホームページのアドレスは、http://www. jca.ax.apc.org/ACE/index.htm、問い合わせは岩附由香iwatsuki@osipp.osaka-u.ac.jpまで。