書評

伊藤公一(公法学・教授)

 松浦氏は、大阪外大の助教授の職にあり、行政法を専攻する中堅の研究者である。氏の研究は、以前より継続して環境法であって、「環境法概説」(改訂新版)は、その年来の研究の成果を基盤にして、国内の環境法に関する問題をほとんど洩れるところなく、論じている。目くばりのきいた、バランス感覚のよい書物であるというのが、全体を見ての感想であるが、特に印象に残るのは次の二点である。
 その第一は、国内法における環境の問題は、いわゆる公害の歴史をひもといているのとほとんど同じだということである。環境に対する侵害は、国や公共団体のような公権力によってもなされるが、過去の歴史は私企業によるものが圧倒的に大きな社会問題となった。四大公害訴訟と呼ばれるのが、その代表的なものである。その際、私企業の環境破壊に対して、国などの公権力がその破壊を阻止ないし抑制する何らかの措置を講じなかったことも法的に問われたが、当面、最も重大なのは実際、環境を破壊し、住民に大きな被害を与えた当該私企業の法的な責任を問うことであった。環境に関する法が整備されていなかった当時、私企業の法的な責任を問うといっても、その法的な規定はごく限られたものしかなかった。
 その代表的な法規定、あるいは唯一といってもよい規定は、民法709条以下の不法行為の条文であった。この規定の趣旨は、故意・過失によって、他人の権利を侵害した者は、損害賠償の責任を負う、というものである。しかし、従来の不法行為論の通説・判例の考え方では、環境侵害の場合、被害住民を救済することは非常に困難であった。そのため、主として民法の研究者はいろいろ苦心を重ねることになる。
 例えば、因果関係論である。通常、自動車事故のような場合、自動車との接触(原因)とその結果被害者の受けた傷害(結果)との関係の立証は比較的容易である。しかし、公害の場合は、加害者たる企業の排出した物質(原因)と住民の被った健康上の被害(結果)の関係を、原告の住民が立証することはなま易しいことではない。専門的知識に乏しい住民が自己の疾病の原因となった物質を特定することは極めて困難であるし、かりにその物質が特定できたとしても、それが住民に到達した経路を解明して立証するのも容易なことではない。さらに、それらが立証しえたとしても、原因物質の量と疾病との間の定型的関係、被害者が原因物質を摂取した量の特定など、多くのことを立証しなければならない。これでは公害の被害者を救済することは不可能にちかい。そのため、疫学的証明説や確率的認定説等いろいろな説が提唱されて、被害者の権利救済にあたってきた。松浦氏の本書は、こういった問題のほか過失論、権利侵害論などについても要領よく的確に叙述されている。
 本書を読んで印象に残る第二の点は「環境権」に関する議論である。環境権という「権利」を裁判所はまだ認めていないし、平成5年に制定された環境基本法をはじめ法律も環境権を定めていない。これに対する批判は学説にも、マスコミの間にも強い。しかし、各種の環境規制法が作られ、また先人の努力により、不充分ながらも環境の保全がなされ、人権侵害には救済ができるようになった我が国では、環境権の最も大きな役割は良好な環境の悪化を事前に防ぐということになろう。良好な環境というのは人、所、時によって異なるし、その悪化を「事前に」抑止するという重大な機能を果たすには、あまりにもその概念が曖昧である。環境権は法に定めても今のところ抽象的な宣言規定としての意義しかもちえないように思われる。本書がその立場に立っているわけではない。
 OSIPPには国際的な環境問題に関心をもつ院生は相当いるが、自国の環境法の基礎知識を有することも必要であろう。本書の一読をすすめたい。


NGO NOW!

温暖化防止に市民の力を

小林哲也(M2)

 今年の12月1日から10日間、国連気候変動枠組み条約の第3回締約国会議(COP3)が京都で開かれます。地球温暖化の防止に向けて、二酸化炭素等の温室効果ガス排出削減について話し合うこの会議は、約5千人規模という国内最大級の国連会議になる予定です。
 気候フォーラムは会議に向けた市民の活動を支援するために、昨年12月に結成されました。ネットワーク型のNGOとして現在、環境NGOを中心に全国から約120団体が参加しています。
 活動の中心は@問題の重要性を広く市民に伝えるキャンペーンや学習会の開催、A海外からのNGOを含め市民が会議に参加するための受け入れ準備B政府への働きかけ、の3点です。しかしまだ国内では数%の人々しかこの問題を知らないというのが実情です。従ってこれから、全国縦断シンポジウムや全国学習会を積極的に開催していく予定です。
95年の第1回会議では、ベルリン市民が7万人の自転車デモを成功させて、積極的な取り組みの必要性を、各国政府に強く訴えました。
 しかし日本を含め先進国は温室効果ガスの削減に極めて消極的であり、現状では会議の成功はおぼつきません。近年の夏の猛暑を含めて温暖化の兆候は既に現れており、決して遠い将来の問題ではありません。温室効果ガスの排出削減義務を定めた議定書を成立させるには、政府へ強く働きかけるために市民パワーの結集が不可欠です。1人でも多い市民の参加が私達の目標です。
  詳しい情報やボランティアの募集については以下にお問い合わせを。「気候フォーラム」TEL:075-254-1011、E-mail:kiko97@jca.or.jp